こんにちは。
今日もハーモニー経営に関するお話です。

 

ハーモニー経営の一端を垣間見ていただくために

ある中小企業社長の苦難、そしてそこから這い上がる物語、第2話です。

 

 

 

経営者が「やりがい」を失う3つの転換点

― 静かな疲労の正体 ―

 

 

1.惰性の中で進む日々

吉村社長は、朝の会議室で社員たちの報告を聞いていた。


売上は堅調であり、新規顧客も順調に増えている。
それでも彼の表情は晴れなかった。

「悪くはない。だが……何かが足りない。」

 

会議が終わると、社員たちはすぐに自席へ戻り、パソコンに向かった。
指示されたことを着実にこなしている。誰も怠けてはいない。
 

しかし、そこには以前のような“熱”が感じられなかった。

会社は止まってはいない。だが、動いてもいない。
 

その曖昧な停滞の中で、吉村自身もどこへ向かっているのかが分からなくなっていた。

 

 


 

2.第1の転換点:成長の惰性 ― “攻め”から“維持”へ

創業期、吉村は情熱の塊であった。
新しい受注を取るたび、社員と握手を交わし、苦しい時も「絶対に次はうまくいく」と信じていた。

 

しかし会社が軌道に乗るにつれて、情熱の矛先は変わった。
「次の目標は前期比105%」
「固定費削減を徹底しよう」

数字を積み上げることでしか成長を語れなくなっていた。
 

気づけば「攻めるための成長」ではなく、「維持するための成長」を追いかけていたのである。

 

会議では社員にこう言うことが増えた。
「無理はするな」「安定が一番だ」

 

その言葉は優しさのようでいて、実は自分自身への“言い訳”でもあった。
挑戦が恐くなった瞬間から、経営は静かに老い始める。
 

それが最初の転換点であった。

 

 


 

3.第2の転換点:思いの形骸化 ― 理念が飾りになるとき

吉村の会社には、立派な経営理念があった。
「誠実なものづくりを通して社会に貢献する。」

 

壁に額入りで掲げられ、パンフレットにも印刷されていた。
しかしある日ふと気づいた。
 

この言葉を、最近誰かが口にしただろうか。

社員に「理念をどう感じているか」と尋ねても、返ってくるのは無難な答えばかりであった。
「いい言葉だと思います」「大事だと思います」

だがそこに“自分の実感”はなかった。

 

理念は生きていれば「指針」になる。
 

しかし語られなくなった瞬間から「飾り」に変わる。

 

吉村はいつしかそれを壁の一部として見過ごしていた。
その“見過ごし”が、社員に「この会社の目的は数字だけだ」と感じさせていたのかもしれない。

 

経営理念とは飾るものではなく、迷ったときに立ち返る「問い」である。
その問いが形骸化したとき、会社もまた心を失っていくのである。

 

 


 

4.第3の転換点:自己との断絶 ― 「社長」と「自分」が離れていく

三つ目の転換点は、もっと静かに訪れる。
 

ある日、鏡を見たときにふと違和感を覚えるのだ。
「この顔、誰だろう?」

会社を守るために社員を鼓舞し、取引先に頭を下げ、プレッシャーの中で踏ん張ってきた。
 

しかしいつしか“経営者としての自分”ばかりが前に出て、“ひとりの人間としての自分”が見えなくなっていた。

休日に家族と過ごしても、頭の中では会議の議題を考えている。
 

趣味だった釣りも、ここ数年は道具を触っていない。

心の中に「自由な自分」を閉じ込めたまま、“社長としての自分”を演じ続ける。
その演技に疲れが出ないはずがない。

 

経営は孤独だとよく言われる。
 

しかし本当の孤独とは、人との距離ではなく、“自分との距離”を失うことである。
そしてその断絶が深まるほど、どんな成功も心の底には届かなくなるのである。

 

 


 

5.やりがいを失うのではない、「感じ取れなくなる」のだ

やりがいは突然消えるものではない。
静かに、少しずつ、感覚が鈍っていく。

 

惰性・形骸化・断絶――この三つが積み重なったとき、経営者の心は知らず知らずに曇っていく。
しかしやりがいそのものは失われてはいない。
 

ただ、見えにくくなっているだけである。

かつて情熱を燃やした日々、仲間と語り合い、未来を信じていた夜。
そのすべては今も心の奥に眠っている。

 

問題は外の状況ではなく、「自分の心が何を求めているか」に気づけるかどうかである。
 

経営が停滞しているとき、実は会社が疲れているのではなく、経営者の心が疲れているのかもしれない。

 

 


 

6.もう一度、心の声を聞くために

ある晩、吉村は帰り際に机の引き出しを開けた。
そこには創業当初に書いたメモ帳が残っていた。

 

“自分の手で、社員と誇れる会社をつくる”

 

走り書きのその言葉に、思わず笑みがこぼれた。
 

「そうだ、最初はこれだった。」

数字の先にある“想い”を見ていた頃。
誰よりも夢を語っていた自分。

 

やりがいとは与えられるものではなく、もう一度、自分の中から掘り起こすものである。

その夜、吉村は小さく決意した。


「もう一度、心を大事にした経営をしよう。」

 

 

 

(つづく)

 

詳細原文は

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