ISO9001では「継続的改善」というテーマが非常に重要視されています。
一方で、ISO9001よりももう一段上の成熟レベルを目指すための指針規格であるISO9004では、「革新(イノベーション)」という言葉が登場します。
改善を積み重ねることは重要ですが、それだけではパラダイムシフトとも言えるような革新にはつながらない可能性があります。
そのため、より難易度の高い革新へのチャレンジも視野に入れるべきだというのが、ISO9004が示している一つの方向性です。
これまでの審査経験の中で、認証取得から長年経過している組織を訪問する機会は数多くありました。
そのため、継続的改善がどの程度実質的に行われているかという点は、常に意識して確認しています。
今回伺った組織では、他社と比較しても格段に確実な運営管理がなされている状況を目の当たりにしました。
だからこそ、その状態に安住してほしくないという思いが自然と湧いてきました。
QMS運用に革新は必要なのか
もちろんISO9001の審査である以上、「革新の度合い」そのものを審査・評価することが求められているわけではありません。
しかしISO9001の要求事項レベルにとどまり続けているだけでは、組織の成長発展はあまり期待できないのではないかという思いを、私は個人的に強く持っています。
期待したいのは、ISO9001の要求事項に加えて、組織独自の基準や要求事項をマニュアルに取り込み、より高いレベルのマネジメントシステム運用に挑戦していくことです。
いわば「Beyond the ISO9001」という発想です。
この点について、トップインタビューの場面で問いかける機会がありました。
実はその前にも社長と立ち話をする機会があり、同様のテーマについて話題にしていました。
ところが結果として、期待とは異なる明確な否定的コメントが返ってきました。
研究開発は本当に必要ないのか
社長からは業界の状況について具体的な説明がありました。
長い歴史の中で製品に関する技術革新はすでに出尽くしていること、
研究開発に積極的に取り組む必要性はこの業界では高くないこと、
国内市場の成長も大きく期待できず、供給能力は業界全体で余剰傾向にあること。
こうした状況の中では、戦略として重要になるのは市場シェアの拡大であり、そのために営業機能への注力が不可欠になるという説明でした。
この話を聞きながら、深く考えさせられました。
研究開発や技術革新が必ずしも最優先課題とはならない業界が本当に存在するのか。
直感的には、社長の説明は非常に理路整然としており、さすが経営者だと感じる説得力がありました。
もしこの考え方を前提とするならば、審査のアプローチも当然変わってきます。
成長拡大を前提とするQMSと、基盤維持とシェア拡大に注力するためのQMSでは、方向性が大きく異なるからです。
はっきり言えるのは、
すべての企業の経営課題が進化や革新にあるわけではない
ということです。
もちろんこの会社も数字上の成長拡大を志向していないわけではありません。
しかし、M&Aのような安易な拡大手法には否定的なスタンスを持っていました。
数字合わせの拡大を図るよりも、先端設備の導入などによって競争力を高め、質の低い同業他社を淘汰していくという戦略を選択していたのです。
審査に必要な「経営戦略の理解」
ISO審査がここまで踏み込むべきだと言いたいわけではありません。
しかし、審査先企業の経営戦略への理解が浅いままでは、どこを深掘りしていくべきかという判断を誤る可能性があります。
この点は前号「昨日の審査は楽でしたね」で触れた内容ともつながります。
相手組織の経営戦略を把握することは簡単そうでいて、実際には非常に難しいものです。
それでも、あらゆる機会を通じてその理解を深めていくことは、審査の質を高めるうえで不可欠な取り組みだと感じています。
今回の審査は、企業経営の奥深さを改めて実感させられる経験となりました。
🌱『今回のひとこと』
■その組織ならではの経営戦略に目を凝らそう