今日は、ISOマニュアルが形骸化してしまう最大の理由である
「規格の言葉」と「現場の言葉」の乖離
について、そしてそれをどう埋めるかについてお話しします。
ISOの条文は抽象的で専門用語も多く、現場の従業員の皆さんにとっては“遠い世界の話”に聞こえてしまいがちです。
その結果、マニュアルは「読むもの」ではなく「審査のときだけ出てくるもの」になってしまいます。
では、どうすれば規格の言葉を“現場の言葉”に翻訳し、日常業務に根づくマニュアルにできるのでしょうか。
前回の記事(ISOマニュアルのありがちな失敗例と改善策)の続きになります。
1. 規格の言葉を「目的」と「行動」に分解する
ISOの条文は抽象度が高いため、そのまま書いても現場には伝わりません。
まずは条文を 目的(なぜ) と 行動(何をする) に分解します。
例:9.1.2 顧客満足
規格の言葉:
「組織は,顧客のニーズ及び期待が満たされている程度について,顧客がどのように受け止めているかを監視しなければならない。」
分解すると:
- 目的:顧客の声・満足度を確実に把握し、品質改善につなげる
- 行動:
- 電話・メール・対面での問い合わせ対応
- クレーム受付と記録
- 顧客アンケートの実施
- 社内会議での共有
翻訳後のマニュアル例
「当社では、顧客の声を確実に把握し品質改善に活かすため、以下の方法で顧客満足の度合いを監視し、社内で情報共有を行う。
①問い合わせ対応(電話・メール)は帳票『お客様の声』に入力しサーバーに登録する。
②クレーム対応は帳票『クレーム受付票』に入力しサーバーに登録、関連部署へ連絡する。
③営業部による半期ごとの顧客アンケートを実施し、社内共有する。
④半期ごとのQMS改善会議で①〜③の情報を議論・検討する。」
抽象的な規格の言葉が、ここまで具体的になれば、現場は行動しやすくなります。
2. “現場の言葉”を拾う
翻訳の鍵は、現場の担当者が普段使っている言葉をそのまま使うこと です。
よくあるNG例
- 「顧客満足度の向上を図る」
→ 現場では誰もそんな言い方をしません。
改善例
- 「顧客アンケートの結果をQMS改善会議で共有し、改善点を決める」
→ 行動が明確で、現場の言葉になっています。
現場の言葉を拾う方法
- 担当者に「普段どうやってる?」と聞く
- ミーティングの会話や議事録から吸い上げる
- 手順書やチェックリストを参照する
マニュアルは“現場の言葉の集積”であるべきなのです。
3. 「現場の困りごと」を起点に書く
規格を起点にすると抽象的になりますが、
現場の困りごとを起点にすると一気に具体的になります。
例:クレーム対応
困りごと:
-
担当者によって対応がバラバラ
-
記録が残らない
マニュアルに書くべきこと:
- 受付方法
- 記録の仕方
- 報告の流れ
- 再発防止の仕組み
規格の条文をなぞるより、現場の課題を解決する内容の方が価値があります。
4. 図解・フローで“言葉の壁”を越える
文章だけでは伝わりにくい内容は、図解やフローチャートにすると理解が一気に進みます。
例:クレーム対応フロー
受付 → 記録 → 上長報告 → 原因分析 → 再発防止策 → 効果確認
フローチャートにするだけで、現場の理解度は大きく変わります。
最近は生成AIで図解も簡単に作れるようになりました。積極的に活用しましょう。
5. 「理念」と「現場」をつなぐ言葉を入れる
マニュアルは単なる手順書ではなく、
組織の理念を“現場の行動”に翻訳するツール でもあります。
例:理念「お客様に安心と信頼を届ける」
マニュアルの言葉:
「当社は『安心と信頼』を提供するため、クレームを“改善の種”として扱い、必ず原因分析と再発防止を行う。」
「必ず」という言葉が入るだけで、会社の思いが現場に伝わります。
逆に「必要と判断した場合は」では、まったく違う印象になります。
理念を踏まえて文言を決めることで、マニュアルは“組織文化”を示す存在になります。
まとめ:マニュアルは「翻訳作業」で生き返る
ISOマニュアルを現場で使えるものにするには、規格の言葉をそのまま書くのではなく、
目的 → 行動 → 困りごと → 現場の言葉 →(可能なら)図解 → 理念の融合
という流れで翻訳することが重要です。
マニュアルは“規格の写し”ではなく、
組織の文化を言葉にし、現場の行動を支えるツール
として進化させることができます。
原文はこちらからどうぞ。
