前回、ISO審査員として活動していく魅力についての整理、検討を行ってみました。
残念ながらChatGPTから得られた回答、情報では現時点においては参考にはほとんどならなかったため、私自身の経験をもとに5項目に整理してみました。
あらためて記しておきましょう。
1.組織経営の支援の一翼を担うことになる
2.専門家として対する相手の方から敬意が払われる
3.知的好奇心を満たす仕事ができる
4.高齢者になっても業務を続けることができる
5.コンサルタントや研修講師としての業務の幅を広げるチャンスが巡ってくる
さて、今回は、この5項目について、それぞれ少しですが掘り下げてみますね。
1.組織経営の支援の一翼を担うことになる
ISOの審査は、ISO 9001であれば品質マネジメントシステムについて、ISO 14001であれば環境マネジメントシステムについて、その組織がどのように取り組んでいるかを審査で明らかにして認証につなげていくものなのです。あくまで品質面、環境面やその他の規格であれば情報セキュリティ面、労働安全衛生面、というある特定の一つの観点について調査確認を行っていきます。
とは言っても、それらのことは当然組織経営全体とのつながりがあります。逆につながっていないような組織経営であれば早晩その会社の経営は傾いてしまう、と言っても過言ではないでしょう。
そして、ISOの認証取得の大きな狙いの一つに、その認証を取得した組織が対外的にアピールする、というものがあります。
自分たちの会社はこの国際基準(あるいみ高いレベルの、と言いたい)に則った会社運営をしている、(立派な、と言いたい)会社ですよ、というアピールです。
だから取引するのも安全だし、信頼してください、という論理です。
それらの組織側から考える認証取得の動機を踏まえてれば、審査員として取るべき行動は、当然、組織経営に資する審査をする、ということになるわけです。
ですから、重箱の隅を突くような審査では組織から全く歓迎されませんし、被審査側の方からまた次回も来てください、と言われるようなことにはまずならないわけです。
更に、組織のISO活用に関する現場の問題として、一部の(多くのと言っても過言ではないかもしれませんが・・・)組織では経営者の興味関心がこちらに向いていないので・・・という声が一向に減りません。
厳しい言い方をすれば、審査の価値を見切られてしまっているということです。これは審査をする側にとっての大きな問題意識です。
組織側にとっては、認証継続を辞めるわけには諸般の事情からいかない、だけれども、この程度以上の価値を審査では期待しない、ということになってしまっている、ということです。
経営者はある意味とても冷徹です。
自分の時間の使い方にも当然シビアです。
そこに力点を置くことによって組織の成長発展につながると思えば当然時間も使い、勢力も傾けます。
しかしながら・・・
時間と精力をかけても対して価値が生まれない、と思えばそこにはこの程度でやっておいてもらえれば十分だから、と言って任せられる人物にその管理業務を振ってしまい、大所だけ押さえておく、という管理手法に切り替えます。
そうでなければ、メリハリの付いた経営管理などできないからです。
そのような経営者マインドを踏まえた上で、審査員は自分の業務をどのように運営管理していくか考えていかなければなりません。
もちろん審査は経営コンサルティングとは違いますので、審査員の立場では言いたくても言えない部分があります。審査に関する国際基準でアドバイス、コンサルティングにあたることは一切してはならない、というルールが存在するからです。
どうでしょうか、少しはお察しいただける点があれば、と思います。
つまり、審査員は、経営者になったつもりでその組織の組織経営の状態を調査・判断し、その上で、依頼を受けている分野(品質とか環境という意味です)に関して、より深く入っていった管理状態の確認をすることが主たる業務、ということになります。
故に、組織の経営理念、ビジョンや中期経営計画をまずは押さえた上で、その上で品質面ではどのような取り組みの計画を持っているのか、環境面ではどうか、という流れで、幹の部分を押さえた上で、枝葉の部分を見ていくことになります。
けっして幹を見ずに枝葉の部分ばかりを細かく見ていく、ということをしてほしくないのです。
このような書き物にしてしまうとあっさりと伝えることになってしまいますが、その審査が出来るようになるにはやはり問題意識と実践の場での活動の融合が必要です。
審査員もいつまで経っても継続した努力が必要である、という理由が個々にあるわけです。
2.専門家として対する相手の方から敬意が払われる
大昔の話です。
ISOの審査員が組織に審査に出向くと、「〇〇先生、ようこそお越しくださいました。さあこちらでまずは喉を潤していただき・・・」
という下にも置かぬ大歓待、という感じです。
少し考えてみていただきたいのです。
学校の先生など、この職業の方々を呼ぶ際に敬称として「先生」という言葉を使ういくつかの職業がありますが、その際に、学校の先生の場合の人生の師としての敬称、とは違う感覚が多少はあるのではないでしょうか。
ましてや互いに営利のビジネスとしてイコールパートナーとも言える関係の中で「先生」という敬称を使うときの心理的背景について、読者の方それぞれで向き合ってみていただきたいのです。あえてそれを言葉に出す必要はありませんが、上記のISO審査員に対して「先生」という敬称を使うときの深層心理としては・・・。
もうこれ以上言わずともおわかりいただけるかと思います。
昔の審査員は、そこに配慮も賢察もなく、乗っかってしまった人が多くいた、というお粗末な状況でした。
当然、昼食や夕食の接待、そして夕食であればお酒も入ります。
敬意が払われている、という見方もできなくはありませんが、完全にずれてしまっていたわけです。
その後、色々なことがあって、私達の業界も足りなかった部分に気づき、反省のもとに真のイコールパートナーになるべく努力と改善を重ね、少なくとも現在では審査に出向いた際に接待を受ける、ということはなくなりました。
そして組織側も、認証を取得することは大変なことで、接待をしてなんとか合格点をつけてもらおうなどという忖度を一切することなく、審査員およびその審査員の審査ぶりが気に入らなければ、審査をしてもらう会社を切り替える、ということも簡単にできることもだいぶ浸透してきました。
ようやく健全な競争原理が働き始めた、と言っても良いでしょう。
つまり、審査員は来てもらっただけでありがたい、という感覚は一切今はなくなり、その審査員が自分たちの組織にとってどのような価値をもたらしてくれるのか、という真の実力の発揮を審査員に期待するようになったわけです。
そして、組織の方々はどうしても日々の業務に追われ、近視眼的になっていることが多くなってしまうのはやむなしという部分があります。本来であれば組織自身が内部監査やマネジメントレビューによって、それらの近視眼的な部分を俯瞰する視点への転換を図って自分たち自身でスパイラルアップを図っていくことが本来あるべき姿です。ですが、それはそれでなかなか高い力量を求められる経営管理技法でもあり、今一歩力及ばず、という組織もあります。
そこを審査員は大局的見地から組織を俯瞰してみるとともに、その特定分野については細部にまで入り込んで滞っている流れが無いかどうかを確認し、問題意識の共有を特に組織の経営陣としていくことができれば、さすがISO審査員、ということになるわけです。
故に、ISO審査員の資格を取得するだけであれば誰でも簡単に取得できる、と言っても過言ではないのですが、本当に活躍できる審査員に誰もがなれるか、というと実は底意はハードルがあります。
正直に申し上げれば、管理職経験を全くお持ちでない方が審査員になろうとする場合は、かなりの努力を要することになる、と覚悟しておいていただきたいのです。
自社の運営管理状況を取りまとめて経営者に報告し、経営者からさまざまな視点、問題意識を引き出し、その上で、次のPDCAを回していく、という経験もまったくない方も研鑽を積んでいただきたいのです。
経営管理は、世間をあっと言わすような会社の経営者であれば別ですが、基本的にはあとから学ぶことによって身につけることができる後天的スキルです。
組織内にいるときにそのような経験を持てなかったから、ISO審査員にはなれない、と思うのではなく、そこに経験不足があると自覚できているであれば、審査員になってから学んでいけばよいのです。
審査先の経営者がどのような本を読んだのか、どのような問題意識を今持っているのか、審査の時間は限りがあっても多少は雑談の時間はあります。
そのようなやり取りができる審査員であってほしいと思っていますし、私自身もそう有りたい、と考えています。
3.知的好奇心を満たす仕事ができる
ここは前2項ですでにカバーした、と言っても良い部分ではあるのですが、もう少し細くしておきましょう。
ISO審査員は健康な肉体を持っていないとなかなか務まらない業務ですが(出張もありますし、審査後のレポート作成で夜遅くまで仕事をする、ということも起きるため)、勝負すべきところは肉体労働によるパフォーマンスではなく、あくまで知的労働におけるパフォーマンスです。
その組織の経営状態の把握から始まり、業界動向、国内経済動向、そして場合によっては国際経済動向というところまで知識が及んでいないと、その組織の方々と問題意識が共有できなくなってしまいます。
もちろんその業界出身でなければ組織の方と同等レベルの知見を持つ、ということは極めて困難ですが、ビジネス最前線にいる方と同等レベルの知的能力は求められます。
スポーツや芸能ネタに精通する必要はありませんが、できるビジネスマンと言われる人に求められる程度以上の、政治・経済情勢への情報収集を怠っていては、ISO審査員は務まりません。
だからこそ逆に言えば、定年を迎えて、退職後に第二の人生としてISO審査員をするようになった方々は、いくつになっても年齢を感じさせず、シャキッとした方が多いということに繋がります。
肉体ではなく、頭を使う仕事をしたい、という方にとっては、ISO審査員は年齢を重ねても従事できるとても魅力ある仕事、という理由がここにもあるのです。
4.高齢者になっても業務を続けることができる
この項も、前項で触れた部分でかなりカバーしているのですが、さらにもう一つ補足をしておきます。
以前はISO審査員も年齢制限、というよりも審査機関それぞれが定年制を設けていました。65歳とか70歳になると、その方の心身の状態に全く問題がなくても契約延長をしない、というスタンスです。
しかしこれもいろいろな事情があり、今は多くの審査機関で定年制がなくなりました。
故に、主任審査員という最上位資格を持ち、活動している審査員の平均年齢が70歳くらい、というのがこの業界の今の姿です。
そして80歳を超えてもまだ審査活動をしている方もおられます。
そして審査を受ける組織の側の方も、若くて経験が浅いのではないか、というような方よりも、多少動作は緩慢になってきたかもしれないが、他社事例も豊富に知っている経験豊富な方のほうが良い、というケースも多くあり、高齢の審査員だから困る、というケースは極めて稀なことも、高齢の審査員にとってはありがたいことです。
弁護士や税理士のいわゆる士業と言われる方々にも高齢の方がいらっしゃいますが、組織側の受け止め方はほぼ同様と言ってよいでしょう。
年齢ではなく、あくまで提供してくれるサービスの内容、質が唯一の判断基準であって、そのサービス提供者の年齢は、ある意味どうでも良い、ということなのです。
唯一、高齢の審査員が気をつけるべきポイントは、審査先では相手の方が全員、年下ということになるわけですが、あくまで自分はサービス提供者である、ということを忘れずに謙虚に、丁寧に相手の方と接する、という点です。
この場使い方、丁寧語、謙譲語の使い方が大事になってきます。
5.コンサルタントや研修講師としての業務の幅を広げるチャンスが巡ってくる
最後になります。
ISOのプロ中のプロと言われる方は、単に審査員としての活動をしているだけにとどまりません。
頼まれてコンサルティング(ほぼISOに関するコンサルティングですが)サービスを提供する顧問先のようなところも出てきますし、話すことができる、という方は研修講師にまで手を広げていきます。
この3つを上手く組み合わせると、それぞれ求められる内容が若干違ってくるため、とても良い刺激になるようです(私自身はまだその3つでフル回転、という状態ではないため、ここだけは周りの方々から得た知見に基づき記しています)。
そしてそれらが相乗効果を発揮して、より高いレベルのサービス提供をそれぞれのジャンルでできるようになっていく、ということを多くの先達の方は成し遂げています。
どれか一つだけ(たとえば審査ばかりということです)では単調な毎日になってしまう、リスクがどうしても否めません。
いつも同じメニューの食事ばかりでは飽きてしまう、というところと似ていると思っていただければよいでしょう。
どこに力点を置くかはその方の指向性の問題です。また報酬もそれぞれ違うので、稼ぐことを重視したい、という方の場合は、審査の割合はどうしても低くなるでしょう。
しかしこのレベルに到達される方々にとっては、多くの場合で、「稼ぐ」ということの重要性はトップにはない方々ばかり、と言っても良いくらいです。
それらの方々にとっては知的好奇心や人に頼りにされることからくる自尊心の充足度ということのほうを大事にされている、と長年接する中で感じています。
だからこそ、高齢になられても皆さん本当にお元気だな、と感じます。
そしてスーパーマンレベルの活躍をされる方は、上記の3つに加えて執筆まで手掛けられます。
それも単にブログを書く、HPを持っている、というレベルではなく、出版までされてしまいます。それによって更に知名度が向上しますので、審査、コンサルティング、研修講師、どの活動をしていく上でも間違いなくプラスに働きます。
何よりも自分自身への自信という意味でも更にパワーアップできることに繋がります。
残念ながらこの出版に関しては、昔に比べてハードルは相当に上がってしまった、と言わざるをえないでしょう。
昔はISO関連の書籍を求める方が大勢いらしたことで、出版社側も強気で行けたわけですが、現在ではISOに関する書籍を求める方は本当に減ってしまいました。
業界系の雑誌も複数あった時代もありましたが、ついに最も知名度のあった「アイソス」も休刊となってしまい、ISO業界の雑誌は、今は1冊も出てこない、という状況に陥ってしまいました。
だからといって、出版はもう無理、と諦めるのは早計です。
本を出したい、と思っている方はじっくり戦略を練った上で、出版を目指してほしいと思います。
出版社は良いネタ、文章をかける執筆者を求め続けていることは昔と変りありませんので。
さて、話は少々広がりすぎましたが、5つの項目に整理したISO審査員になって活躍していく魅力、お感じいただけましたでしょうか。
そしてこれらのことを成し遂げていくのは、実は30代や40代のバリバリの世代の方よりも、多少はくたびれてきたけれどまだまだやれると思っている50代、いえそれよりも更に上の60代の方のほうが可能性をより身近に感じていただけると思います。
定年退職を意識するようになった年代の方には特に強くお勧めしたいのです。
もっと詳しく話を聞きたい、という方は個別にご連絡をいただければ、私自身が、キャリアコンサルタントという国家資格を保有していることもあって、何らかのお手伝いができるかもしれません。遠慮なくご連絡ください。
(了)