戦車 砲手編 | Dream Box

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このブログの内容は5割の誤解と4割の勘違い、2割の嘘で成り立っています

$#STAND ALONE

                   ※例によって画像はあっちこっちから適当に拾ってきた物です

これはⅥ号戦車ティーガーⅠの主砲に搭載されているTZF9b照準機に刻まれているゲージです

単純に言えば中央の大きな△の頂点に目標を捉えて撃てばいいのですが、さすがにそこまで簡単じゃありません

石を投げれば放物線を描いて落ちます

大砲も同じで1000m以上も先に撃ちこみたい場合、砲身を相当上に向けて撃たないといけないわけです

戦車砲のように砲弾の運動エネルギーで敵戦車の装甲を打ち破りたいという類の兵器の場合、500mやそこらは弾道が直進を描きます(こういうのを弾道が低伸するといいます)

どれだけ砲身を上げれば(仰角)を取ればどの距離に落ちるかはその大砲の開発時や訓練で熟知してるでしょうが、実戦では突然現れた(視界に入った)敵の距離を即座に測定できないものです

現代の戦車ならレーザーなどを使って簡単に測距もできますが、1970年代までに開発されたような戦車は戦車兵の能力と練度に頼っていました


そこで使うのが照準器に付いているゲージです(レティクルと言います)

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この種のゲージは国によっても戦車によっても大きく違いますが、ミーハーなマニア的には第2次世界大戦期のドイツ戦車の物を想像するのがデフォになってます

中央にあるクサビや三角形は照尺で、これらの図の場合中央の大きな△は縦横の大きさが4シュトルヒ、左右の小さい△またはΛは縦横2シュトルヒ、頂点間の隙間は4シュトルヒで構成されています

この『シュトルヒ』という単位は一般的には『ミル』と言って円周の360°を6400分割したもの、つまり約0.0573°を表します

かなり中途半端な数値ですが、この1ミルという角度は三角比で1㎞先で約1mの幅になり具合がいい事から戦車などの照準器でよく使われている基準です



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例えば上図の左で戦車を正面から見ていますが、この戦車の横幅が3mという知識があれば中央の△の底辺の幅は4シュトルヒ(ミル)なので、基準として考えた時に1000m先にいる幅3mの戦車はおよそ3シュトルヒに見える筈なので1000×3/4で距離750mという数字が出て来ます(実際戦車の上の距離のゲージは10の少し手前に合っています)

ならば750m分砲身を上げて撃てば、砲弾は750m先でちょうどこの戦車に命中する放物線を描いて飛んでいくでしょう(放物線の先で狙ったポイントに当てる事をゼロインと言います)

真ん中の図では戦車を横から見て3シュトルヒあります

T34の車体長が6mだという知識があれば、6mの物が3シュトルヒで見えるなら距離は2000mあるという事になるわけです(戦車の上の距離ゲージも20よりちょっと大きい数値に合っています)



では具体的に見てみましょう

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上の画像はガールズ&パンツァー第6話「一回戦、白熱してます!」のものです

中央の大きい△は縦と横幅(底辺)が4シュトルヒ、小さい△は2シュトルヒずつ、△の頂点の間隔は4シュトルヒなのは同じです

真横を晒しているこの戦車の大きさはおよその感覚で隙間4こ分、つまり16シュトリヒですね

この戦車、『M4シャーマン』シリーズの車体の全長は約6メートルなので、1000m先に見えた場合は隙間1.5個分のサイズ(6シュトルヒ)に見える筈です

しかし16シュトルヒに見えるわけですから6/16=1/2.67、1000/2.67で約374m先にいる事になります(上の動画で語られている [距離=目標のサイズ(m)÷シュトルヒ×1000]です)

そこで照準器の距離ゲージを「4」の手前あたりに合わせると、見えている映像はそのままに、三角の列が下に動きます

この視野は砲身の軸と一致しているので、距離によって砲弾が放物線を描いて沈む分を砲身を上に向けて撃つ事になるわけです


ただ実際にはもうひとつ考える必要があります

相手の戦車が動いている以上、直接狙った場合に弾が届く頃には目標は先に行ってしまい外れます

この射撃を行っているⅣ号戦車D型の24口径7.5cm砲KWK37の初速は385m/sなので、この目標に弾が届くのに約1秒かかります

これに対しM4シャーマンの不整地最高速度は約20㎞/hなので、1秒で5.5m移動できます

M4の車体の長さは約6メートルなので、その中央に命中させたければ車体1個分の未来位置を狙う必要があるわけです


これを偏差射撃といいます

自分(の戦車)も動いてる場合(行進間射撃)はその分も計算しなきゃなりませんが、第3世代までの戦車ではお互いに動いてる状況ではまず当たらないので考えなくていいでしょう

でもまあ戦闘中の一杯々々の状態で、こんな細かい計算をいちいちやってられるわけがありません

相手がこちらの存在に気付いておらず、遮蔽物の陰から一方的に一発必中を期して狙い撃つ時は別ですが、お互いに撃ち合ってる状況では「この位だろ」の感覚で撃って当たればラッキー、外れたら着弾位置から照準修正した方が『生き残れる可能性』が高まりそうです

結局は訓練で経験値を積み、照準器にこのくらいの大きさで映ってるから距離○○○mかな、えらく砂煙あげて走ってるから車体2つ分くらい先に照準を定めて車体1つ分になった瞬間に発砲しよっと、みたいな感じになるでしょう


ただ一つだけ端折れない要素もあります

2つ目の図で中央の△の右にある小さい△の『Cannon Position』『MG Position』と書かれています

戦車の照準器はカメラで云うところの二眼式ファインダーのような物で、砲身の軸と並行に置かれているので照準器の中央と砲身の中心軸は一致していないのです(というか両者の軸を交差させて一致させたら、その距離以外では軸が大きく狂ってしまう事になります)

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これはⅥ号戦車ティーガーⅠの主砲防盾(主砲の付け根)ですが、向かって右側の2つ穴が照準孔で左側の1つ穴が同軸機銃用のものです

コンパクトカメラなどで撮影しようとした時、ファインダーで除いた構図と実際に撮影した構図にズレが生じてしまう事があるのと同じです

この差を修正する為にひとつ横の△レティクルを使うというような事もあるわけです






( ・ω・) 「もしあなたが第2次大戦期にタイムスリップしてドイツ戦車に乗りこむ事になった時のためにお送りしました」