いつになく、すがすがしい朝だった。
スッキリと起きたボクは。 君のいるリビングにいった。
君は。 まだ小さい寝息を立てて小さくカラダを丸めていた。
冷蔵庫からオレンジジュースを出し、グラスに雑に移すと、ぐいっと一口飲んだ。 すっぱかったのをおぼえている。
眠りをさえぎらないよう、静かに床に座って君を見た。
少し、やせたかな?
あれ? 顔の感じが、ちょっと変わった?
夜には気づかなかった君の姿が、少し見られるようになった。 疲れているようにも見えたが、寝ている君はどこか晴れ晴れとしているようだった。
うぅぅん
小さく声を出して、君は目を開けた。 まだ変わらない君の表情は、ボクに気づいた瞬間、急にはっきりと起きたような表情だった。
そして。 君はボクの顔をはっきりと見て、カラダを起こした。
「ねむれた? 寒くなかったかな?」
ボクは、そう聞いた。
君は。 小さくうなづいて、髪の毛をさっとまとめ整えた。
「今日は。どうする? ボクは仕事あるけど、君が望むなら休むこともできるよ。」
君は、じっとボクを見て動かない。 そして、質問したボクの言葉のあとに、少しうつむいた。
しばらく。うつむいたまま、何も答えない。
「疲れているのかな? だいじょうぶ?」 ボクが聞くと、うつむきを大きくして、やはり何も答えない。
「それとも。ボクは仕事行ったほうがいいかな? まだ寝るならそれもいい。」 それでも答えない。
返事をしない君を見て、少し強い口調で、こう言った。
「今日は、ひとりで寝たりしてゆっくりするといいよ。 おなかがすいたら、冷蔵庫にうどんを作るくらいの材料はあるし、流しの上の棚にはパスタも入ってる。 冷凍庫に冷凍食品もあるから、食べてもいいよ。」
そして。念のため、と思って、君が座っているソファのすみに、財布から千円札を2枚置き、
「もしもほかに欲しいものがあるなら、これで買っておいで。 駅のほうに向かう道にはコンビニもあるしスーパーとドラッグストアもある。」
君は。置いたお札をそっと見たあと、ボクをまた見た。
「あ。それと。」
ボクは立ち上がり、自分のキーホルダーについている部屋のキーを抜いて、
「もしも、外に行くなら。 部屋の鍵はしていってね。 スペアキーはボクも持ってるから、君が1つ持っていていいから。」
お札のとなりに、静かにキーを置いた。 シルバーのキーは、朝日を受けてキラッと輝いた。
君は。何も言わずに、またうつむいた。
君が何を考えているかを話したいと思った。いろいろ聞きたいことも伝えたいこともあった。 でも、ボクはまだ君のことをどういう方向から話しかけていいのかわからず、少し時間が欲しかった。 もしかして、君の沈黙を避けたい、と思ったのかもしれなかった。
「まあ。あまり気にしないでいいよ。 また、時間取ってゆっくりと話そうよ。」
笑顔を作って、君にそう伝えた。 作り笑いだとわかってしまうような表情だと思った。でも、笑顔を見せないといけないと感じた。
君は、すっと頭を上げ、ぼくのほうを見ると、静かにうなづいたように見えた。
「じゃ。いってくるね。 7時くらいには帰ってくるから、待っててね。」 ボクはそう伝えると、君はまた少しうつむいた。
これ以上。 朝のこの時間で話すことはなかった。 すぐに寝室に戻って身支度をして、もう一度リビングに戻り、
「じゃあ。いってきます。」
そう一言だけ伝えて、部屋を出た。
外に出たときの朝日が、いつも以上にまぶしく感じた。
(第三夜 終わり)
注意:このストーリーは、事実を元にしたフィクションです。あしからずご了承ください。