ヒョン Act.24

 

彼女はわたしの前にスマホを差し出した。

「ジニョクさんから連絡が。家についたって…」

そういって見せてくれた画面に、彼との会話があった。

〈ごめん帰る連絡遅くなった。もう家についたよ。ホワイトボード消しといて〉

わざわざ見せてくれなくてもと思ったけど…その理由がわかった。

〈ところで、代表から連絡なかった?〉

わたしのことを気にするひとことが記録されている。。思わずヘインさんの顔を見てしまうと彼女は笑ってうらなづいた。わたしもヘインさんの顔を見てうなづいた。彼女のせなか越しにチーム長が見えた。

「代表…行ってらっしゃいませ」

チーム長が微笑みながらわたしにいった。

「行ってきます」

わたしは答えた。チーム長のとなりには、エレベータでいっしょになった彼女がいた。わたしは軽くお辞儀をした。〈泣かせないから安心して〉とこころのなかで呟いて。

ほんとに、みなさんにご心配かけてごめんなさい。よかれと思ったのに、間違いだった。だめだったわ。こころは、自由なものだもの。無理矢理針路変更するなんてできなかった。

わたしは自分の真実を知らなかったから。あの笑顔、好きよ。わたしの笑顔。初めて自分を好きだと思ったわ。でもあの顔は、あなたといっしょの時間を過ごしているからよ。あなたの笑顔が、わたしの笑顔になっているの。そしてわたしの笑顔があなたの笑顔になるんでしょう? 離れてしまえばなんて、悲しい結論を出してごめんなさい。あなたがあんなに止めてくれたのに、わたし、何も見えていなかった。目の前の光景だけが不幸に見えていた。あなたがいないわたしは、いつも不幸だった。いつもひとりで鏡をのぞいて、わたしの不幸ばかり見ていた。不幸は慣れているから、それでいいと思った。しあわせなんて、見たことがなかったから。あなたとの時間が、

駐車場に行ったらおじさんがいた。自力で行けるけど…。おじさんの期待が伝わってくる。まるでトトみたいだもの。

〈トト、お家へ帰りましょう〉

そういうかわりにわたしはいった。

「車を出して」

心配かけたわね、おじさんにも。

「承知しました」

とおじさんはドアをうやうやしく開けた。ルビーの靴は代表室に置いてきたから、かぼちゃの馬車で行くわ。駐車場を出ると、街はもう暗くなっていた。

「自宅へ?」

おじさんがいつものように聞いてきた。

「弘済洞へ」

わたしが答えると、おじさんが嬉しそうに笑った。