スヒョン Act22
どんな顔をすればいいかとまどうわ。でもあなたにそういわれるとすごくうれしい。でもカメラマンみたいにいろいろ注文してくるから、思わず笑ってしまった。なんだかアイドルなシチュエーションじゃない? アラフォー女にきつくないかな。あなたといっしょだと、こんなばかばかしいことも楽しくて、笑ってしまう。足まで撮るなんて、どうかしてるわ。でも、わたしたちの影が重なり合う。うん、いい時間。
「キューバで初めて会ったとき、事故の日」
「カメラが壊れて悲しんだ日ね」
「そう、その日」
「それが?」
並木道を歩きながらなぜか話題がキューバになった。
「ぼくが読んでた本を?」
「空港で読んでた本?」
いすに座ってじっと読んでた…。韓国で流行った本だった、たしか。
「うん、同じ本です」
「その本に、メタセコイアの木が出てくる」
それでここへ来たの?わ、風がけっこう出てきた。
「小説のなかの詩人には、愛する女性に手紙を書いてメタセコイアの木の下に埋める」
土に埋めたら消えてしまわない?
「あとで詩人の恩師が掘り起こします。そして詩人に代わって渡そうとするけど」
ふんふん。うん、ジニョクさんが黙ってしまった。
「そこで終わる」
え。何その未消化な結末。
「読むたびに気になる。手紙の内容が」
気になるわ。じゃあ、これはどうかしら。
「“ぼくは愛を本で学びました”“いまは鮮明です”とか?」
よく覚えてるでしょう。あなたのセリフ。
「まったく」
と彼も笑った。ふふふ。
「なぜその詩人は手紙を木の下に埋めたの?」
「別れたから?」
「難病だったんです」
え。もしかして死ぬ話なの? 思わずわたしは足を止めた。
「悲劇的な結末じゃ気が重くなる」
わたしが文句をつけら、好戦的に絡んできた。
「どこが悲劇的? 人が死んでも愛は消えない」
死んで終わる悲劇性はずるいから、嫌いだわ。
「トゥルーラブです」
トゥル―ラブって…、すっごく強くくるからむっとしちゃう。
「気晴らしに連れてきて悲しい話? 気分が悪い」
イライラする。せっかくふたりでいるのに、楽しい話じゃなくて悲しい話。しかも恋人が死んじゃう話なんて。わたしはジニョクさんを置いて歩きだした。