スヒョン Act5
早くジニョクさんを高速バスターミナルまで送ってあげないとだめだわ。ポップコーンはジニョクさんの朝食になることになった。ドリンクは持ちづらいから車中で飲み始めた。
「ターミナルに着くまで眠っていて」
少しでも睡眠時間をあげたかった。
「何をいってるんですか、せっかくいっしょなのにもったいない」
「だって、始発でいっても9時じゃほんとにホテルに直行でしょう?」
たいへんなのがわかってるからいってるのに。
思ったより早くついて、映画館のドリンクを飲みながら、少しだけ話をした。でもしっかり手をつないで。この手がもう少しで離れてしまう。10分だけこうしていましょう。
「ぼくのカメラは元気ですか」
「…元気、よ」
ちゃんとジニョクコレクションに入ってるわ。使ってないけど。
「ちゃんと撮影してみてくださいね」
カメラに興味ないんだけどなあ。
「カメラってなにがおもしろいの?」
「ええ? おもしろくないの?」
「う、あんまり、残すことに興味がなくて」
「ああ…そうか、そうかも…ですよね」
「でも残すっていうより、捉えるんです。カメラはその一瞬を永遠にするんです」
まるで子どものようにジニョクさんが話す。かわいいなあ。あなたのその顔…その唇…キスしたい。ああ、いけない。なんだか浅ましいわ、こんなこと考えるなんて変態。
あと20分。そろそろ言ってあげないとだめよね。受付もあるからもういかないとな。ああ、離したくないなぁ。
「さあ、時間ね」
わたしがそういうと、ぴたっとジニョクさんが止まった。車のなかが沈黙した。
「時間が早くすぎる」
彼が不満そうにつぶやいた。ほんとね。でもこればっかりはジニョクさんの魔法でも無理よ。人間にはどうしようもないわね。
「今日は忙しいわね」
元日からのシフトがあたった社員には特別手当も出るから許してね。
「こうして会えたから我慢します」
わたしも我慢しなきゃね。でも大丈夫かしら、6時の始発で8時半だもの。シャワーを浴びる時間もないわよ。なのに彼はわたしのことばかり気遣う。
「今日はゆっくり休んで」
休むべきなのはあなたのほうなのに、あなたはわたしの心配ばかりね