スヒョン Act3

 

ジニョクさんが入口でフライヤーを手に入れた。これを見るって。映ってるのは黒人と白人のおじさん二人。さすが文学青年。しぶそうね。『グリーンブック』黒人の差別がひどかった時代の物語。色気…ないなあ。さすがジニョク氏って感じかしら。でもちょっとおもしろそう。恋愛ものよりいいわね。はずかしくないもの。

「ポップコーン食べる?」

敬語じゃないのね。そのフレーズ…憧れだった。

「スルメが好きでしょ」とけん制した。少し困って天上を仰いだ。その顔も好きよ。ふふ。

「ポップコーンを」

苦笑いしてジニョクさんがわたしと腕んを組んでフードカウンターへ向かった。映画館デート、ポップコーンとコーラ。10代の憧れパターンじゃない。20年後にわたし叶えるの?? でもわたしたちはもうもう10代じゃなかった。どちらもコーラを選ばなかった。夢もちょっと変化するのね。 

 新年深夜の映画館ってこんな感じなんだ。せっかく開けててもこの人でじゃちょっと採算とれないかも…でもまあ、少ない人員でまわしていたし、利益は出るのかな。選んだ映画の部屋もすごく少なかった。少し始まっていたのでそっと入った。

「観客が少ないわ」

ジニョクさんもあちこちを見た。それからわたしに聞いてきた。

「ぼくの趣味はマイナー?」

にがにがしそうなその顔…が

「わたしは好きよ」

じゃあわたしの趣味もマイナー? ジニョクさんが笑った。その顔を見るとしあわせな気分になる。スクリーンを見ると、彼の左手が伸びてきた。わ。わわ。これって、あれよね、恋人同士が手をつなぎなら映画を観るってシーン、よくあったわ。ちょっといやらしい感じって思ってたけど、ミジンが貸してくれたDVDで見たわ。「応答せよ1988」でもこんなシーンがあった、あれもパク・ボゴムだったわ、たしか、そう、天才囲碁棋士との恋よね、主人公の。手をつながれて、女の子がくるんって、手の平を合わせるの…かわいかったな。わたしも手の平を返そうとしたのに、ジニョクさんは棋士じゃなかった。わたしの手を、自分のほうに持っていった。それから両手でわたしの手を握って、指を絡めた。胸がきゅんとした。彼も笑った。憧れてたな、ほんとうに必要なことは、いつかかならず訪れるから焦らなくていいというけれど、案外ほんとうなのかもしれない。

暗闇が、人を自由にする。どきどきしながら、彼の肩に頭を寄せた。甘えるって、気恥ずかしい。キューバとは違う肩ね。しばらくして、彼も、頭をわたしの頭に寄せてきた。