スヒョン Act10

 

 ラウンジで秋から切り替えたコーヒーを試した。いい感じ。まず香りが深くていいわ。好みでいえばわたしはもう少し酸味がやさしいほうが好きだけど、きっとこの味が好きな層はいるわ。飲みながら、ミジンがわたしを見てきた。

「もしかして、この間のランチ代、キャッシュバックになるかもしれませんねえ」

「あら。彼は補償を求めにきたのではなくて、働きにきたのでは?」

わたしの返事に、ミジンが唇をとがらせた。

「なにか、しきりにいいたそうな気がしますが…」

「え?」

「代表、ほんとは彼に声をかけたいでしょう」

(さすがねミジン)

「でも、めんどうだからやめてくださいね。新入社員の個人面談はまもなく始まりますし、いいたいことはその場で、まとめてどうぞ」

「なんでわざわざそんなこというの」

「キューバで事故ったこに、韓国で再会するなんて、そうそうあることじゃないから、なにか因縁というか運命的なことを感じたくなるけど、個別に行動を起こすのはめんどうのもとです。事故をもみ消したとかさわがれてもいやだし、あのこがマスコミにネタをうるかもしれないし、最悪なのは、また地獄の大魔王が呪いをかけるかもしれないことですよ。離婚の条件、忘れたわけじゃありませんよね、代表」

「わかってるわよ」

だから、声もかけてないじゃない。せっかくのおいしいコーヒーが台無しじゃない。でもそうよ、わかってるの。魔女には要注意って。へたなことをしたら、彼女はすぐこのホテルをひきとりに来るわ。業績があがったこのホテルを、欲しがっているのがわかるもの。でも、何があっても、わたしが4年で築きあげたこのホテルは、ぜったい渡さない。