5年目のデート 1
働いてるドクソンとはけっこう時間を合わせるのが難しいから、ぼくは高校時代みたいに家から出る時間を狙った。フライトの日時によって、時間はばらばらだけど。前もってわかるから。今日は午後出勤。バタバタの足音のかわりに、キャリーバッグのガラガラが聞こえる。音が消えたら、階段、1,2,3,4で鉄のドアがきしむ、ここでうちのドアを開けると、ほら、ドクソンがいる。
「おはようドクソン」
「おはようテク。お昼だよ」
大通りまで、短い横町デートを楽しむ。
「明日帰ってきたら、映画の日だよ」
とぼくがいうと、
「ドタキャンなしだからね、テク」
と、逆に念を押された。了解。ちゃんと行く。なんならいまから映画館行って待っててもいいよ。
「イ・ヨンエの口紅にしたの。どう?」
って、ドクソンが聞いてきた。いわれてみれば、今日はちょっと不思議な色。おいしそうなオレンジ色だ。なんだかドクソンもおいしそうに見える。
ちゃんと「彼女より、かわいい」って教えてあげた。
「イ・ヨンエ、知ってるの」
…知らない。けど、ぜったい彼女よりかわいい。
「とにかく、かわいいよ」
ぼくは真実をいう。ドクソンがまた笑顔になるからもっとかわいくなるんだ。だから抱きしめようとしたのに、ドクソンが急にかがんでよけたから、よろけて、一回転。そうしたら、目の前に帰宅途中のチンジュがいた。小学生の毒舌家のぼくの妹。
「なにやってるのよ。ふたりで」
「お話ししてたのよ」
と、ドクソンがうそくさい声で話した。ぼくも助け船を出す。
「あとで、兄ちゃんがゆっくり話してあげる」
っていったら、「何をはなす気よ」ってドクソンからひじてつをくらった。ドクソンは昔から一寸凶暴なところがある。ボラさんの10分の1くらいだけど。
「ちょっと!」
チンジュがすごく驚いた声を出すから、ぼくらも驚いた。ふたりのことがばれたのかと思ったけど、彼女が驚いたのはドクソンの口紅の色だった。
「なんなのそのへんな色」
いいたいこといって、毒舌家チンジュは家に帰っっていった。ドクソンはショックを隠せないみたい。ぼくはあらためて、顔を見るけど、なにが??ん???ぜんぜん。
「かわいいよ」
ほんとだよ。ドクソン。ぼくは嘘をつかない。