「インターセックス」男、女以前に人間 | 本の話がメインのつもり

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気まぐれに選んだ本を読みながら、何となく見つけたジャンクな菓子ばかり食べます。

インターセックス/帚木 蓬生

たくさんの人が読んだらいいと思う:GOODGOODGOODGOODGOOD /5

ミステリ要素:あーあー /5

「エンブリオ」から読もう!:うーんうーん /5



久しぶりに帚木蓬生さんの小説、「インターセックス」を

読みました。

この作品は「エンブリオ」という前作の続きでした。



泌尿婦人科医である秋野翔子の先輩で

熟練の産婦人科医・高木が不可抗力の

妊婦の死亡の件で逮捕され裁判にかけられた。


しかしサンビーチ病院の委員長・岸川卓也が

見事な証言をし、裁判は形勢逆転となる。

感銘を受けた翔子は岸川に名刺を渡した。


数日後、とある患者が翔子のもとへセカンド・オピニオン

をききにやって来る。


彼女は〈先天性副腎過形成〉で男の子のような体を

持って生まれてきた女の子・美奈だった。


度重なる手術により少女の局部は傷で黒ずみ

さらに手術が必要だと言われて相談に来たのだ。

翔子は彼女にやりたくない手術はしなくていいと

助言する。


ところが手術を薦めていたのはサンビーチ病院の

岸川であることを知って、美奈のサンビーチ病院での

診察に付き添うことを決める。

サンビーチ病院の謎、親友や関係者の突然死の謎に

翔子が挑む。



長編サスペンスらしいです。

あらすじに書ききれないほど濃い内容でした。


インターセックスという言葉は「男」と「女」のどちらか

一方には分類できない性のことで、

染色体や外性器、内性器の形状が曖昧な人々のことらしいです。

驚いたことに広義に見ると100人に1人の割合で生まれるそうです。


そうやって生まれてきた子どもは形だけでも

男の子か女の子のどちらかに見えるようにしよう、

と局部に何度もメスを入れられるという乱暴な「治療」を

することもあるそうです。


つまり「男」と「女」以外は認めない、という姿勢です。

結構、ショッキングな内容でした。


そんな中で翔子先生は「インターセックス」という性を

認め、生まれてきた子どもはそのまま育てるようにし、

成長の中で悩みや相談をきいてあげ、少しでも生きやすく

する手伝いができたら、と考えるステキな先生です。


自助団体に参加したり、カウンセリングをしたり、と

翔子先生の活躍の様子が描かれてすっかり「そういう物語なんだ」

と浸りきったあたりで翔子先生の「親友の不慮の死」の謎が

再浮上します。


そのあたりから思い出したように内容はサスペンスっぽく、

ミステリっぽくなります。


話の方向が急激に変わったなぁ……

なんて思いながら後半部分は読んでいました。


しかしです、この本はたくさんの人が読んだら

いいんじゃないか、と思いました。


インターセックスと言われる人々がたくさん

いながら私は何も知らなかったです。

タブー視されていて、医学生の教科書にすら

ちゃんとした内容はないと作品の中で語られていました。


100人に1人もいるのにその存在を無視とは

ひどい話ですね。

そんな人たちがこそこそせざるをえない社会は

よろしくないです。


「男、女という以前に人間としてみる」という作中の

言葉、ごもっともですね。

この本が読めてよかったなぁと思ったわけです。


そういえば前に読んだ「臓器農場」という小説も

そのサスペンスっぷりよりもテーマの方に

興味を持った作品でした。

帚木さんの作風がわかってきたような気がする、かも。


ちなみに「エンブリオ」が前作らしいですが、

本作から読んでもなんら問題なく理解できました。