バイクに着くと周りにはほとんどバイクがない状態でした。すでにほとんどの選手がスタートしているということです。
バイクには悪天候時に使用するためのレインコートと冬用グローブ、ネックウォーマー、アームカバーを用意していました。悩むことなく全てを身に付けました。それでもこの状態で走ることは危険だと思い、その場でしゃがみこみガタガタ震えていました。スタートするようにうながされるも動ける状態ではなく、そのまま何かが変わることを期待し待ちました。

するとスタッフが僕を呼び、「このマンホールから暖かい風が出ている」と教えてくれました。
その上に行くと何の風かはわかりませんが暖かい風がたくさん出てきて、全身を温めてくれました。グローブが飛んでしまうほどの風量で、少しずつウエアが乾き始め、震えが治まってきました。その間も一台一台と数少なくなってバイクがスタートしていきましたが無理せず、意識レベルが正常に戻るまで我慢しました。

トランジット時間30分。ようやくバイクスタートです。

この時点でスタートから2時間。さらに低体温症による過度のダメージにより身体がエネルギーを欲していました。噛むことができなかったのでラムネをたくさん食べ、ジェルを飲みエネルギーを補給しました。
スタートして10kmほどで補給食を入れたバッグはほぼ空になりました。

ニースのバイクコースは非常に過酷で20km地点から登りが始まり、40km地点で少し下り、47km地点から70km地点まで登り続けます。トータルの獲得標高は2000mを越えます。

スイムで痙攣した両足がまともに動かず70kmの山頂に着いたときには3時間40分かかりました。
70km地点には「スペシャルニーズ(補給食)」を置いておけます。
今までの競技人生での経験を生かし、最適な補給食は何か。ニースに来る前から相当悩みました。

エネルギー、塩分、食べやすさ、味、冷たくても食べられるもの。
悩みに悩んでたった一つの食べ物にたどり着きました。

日清UFO!!!!

当日朝にホテルでジェット湯切りをし、ソースをからめ、パッケージをテープでしっかり留めました。
いつもレース後に出店に行って買う焼きそばは最高に美味しく、心も身体も癒してくれます。
それをスペシャルニーズとして取り入れました。

岩に腰かけガッツリ貼ったテープを剥がします。剥がれません。
無理やり剥がして麺が飛び出たら困るのでテープの端を探し、丁寧に開封の儀を行い、割り箸を割り、食べました。そうです。うますぎです。

身体が欲しているものを口にできる嬉しさで笑顔で食べていたらフランス人のおじさんにたくさん写真撮られました。アジア人が山頂で箸使って黒い麺を笑いながら食べていたらそりゃ写真撮りますよね。

食べ終わったと同時にUFOの上にパラパラ雨が落ち始めました。UFOの上だけかと思っていましたがあっという間にザーザー降り、路面は川のようになりました。山頂の一番気温の低いところで冷たい雨に降られるのは身体に大きなダメージを与えました。また低体温症になりました。

ガタガタ震えながら山を下り、次の山へと向かいます。横に見える青空がこちらに向かっていることを願っていましたがその青空は近づいてくることはありませんでした。

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