このGWは年号の変わり目とその長さで、多くの方の記憶に残るものとなるだろう。私の誕生日はいつもGW直前にやってくるのでその日は必ず休暇にするのだけれど、今年はそこからさらに有給を使って1○連休を実現することができた!祝日に関係なく仕事をされている方にとっては妬まれそうな話だとは思うけれど、その直前まで多忙を極めていたのでどうか許してもらいたい。


そんな4月末, GW序盤の今日お届けするのは

前々回からスタートしたモンスターサルーン連載の最終回。これまでお届けしたBMW M5, Lexus GS Fが所属するEセグメントのさらに上にある、FセグメントのJaguar XJR575だ。Fセグメントともなると全長は5mを超えてくるし、幅も1.9m。この数字だけでもお腹いっぱいになりそうなボリュームだけれど、それ以上に気になることがあった。

それはXJRというグレードに、ここまで大袈裟な装飾や派手なカラーリングが必要なのだろうかということだ。私が思うに、歴代のJaguar XJRは控えめなルックスの中に猛々しいパワーを秘めていることを美徳としていた。よーく見ると違いはあるけれど、何も詳しくない方にはフツーのJaguarに見えて実は速い。そのギャップでほくそ笑むことができるのがオーナーにとっての歓びとなるクルマじゃないかと。


ところが、このXJで追加されたXJRは鮮やかなブルーを纏い自らの最高出力をグレード名にしてしまった。考えてみれば、2009年にデビューしたX351系と呼ばれる現行型はこれまでのJaguarらしさを一見するとかなぐり捨てたような見た目だった。前後のノッチをしっかり効かせたデザインからテールをファストバック風に仕立て、これまでの歴史を否定しているように思えた。

これもじっくり観察していけばこれまでのエッセンスが全くないわけではないのだけれど、基本のフォルムが激変したことですぐに受け入れがたいデザインへと変わってしまった。私が知る限り、このXJのデザインを手放しで褒める人は周りにいなかったと記憶している。先代のBMC版であるX358を運転したMr マイペースと私は、スロットルのオン・オフで大きく挙動が変わるけれど、豪快で繊細で古風なXJの虜だった。


だからこそ、私もこの現行XJに少しでも早く乗りたかったのだけれど、そのタイミングをずっと逃していた。そんなときにこのクルマをテストできる機会をいただいたのだけれど、実際に乗ってみて色々な意味で驚いた。「こいつはちゃんとJaguarDNAを受け継いでいる!」ということに。


今回のテストコースのメインは高速道路。このクルマのパフォーマンスを発揮するにはまだ狭いけれど、途中通過した一般道に比べればずっとのびのびできる。今回のコースはそんな高速道路にスタート早々から乗るというシチュエーションだったのだけれど、流れより早めのスピードで走り出してX358の感覚が蘇ってきた。


それは、このリーピングキャットのエンブレムにふさわしい乗り心地だ。日本のエンスーはこれをよく「猫足」と呼んできたけれど、英語では”Breezing suspension”というらしい。それは路面からの突き上げを強靭な剛性のボディで抑え込んで、ボディを徹底的にフラットにしようとするドイツ車とは考え方が違う。路面からの突き上げをボディの上下動を伴いながら全身でいなそうとする。だから、20インチというロープロタイヤを履いているのに想像以上に乗り心地がいい。ドイツ車に慣れた方からすればその挙動でスピードを出すのが怖いと思われる方もいるだろうが、目を閉じていても感じられる個性的な乗り味が私は大好きだ。

そうこうしているうちに料金所へ。クルマの流れが切れそうなので、ここぞとばかりにスロットルを踏み込む。


グレード名にもなった575PS5.0L V8 スーパーチャージャーの控えめで力強い爆音に、私は満面の笑みを浮かべながら海岸沿いの道を突き進む。上に貼り付けたXE Project 8のようにAWDではないから踏み方次第ではホイールスピンも容易いけれど、前後265&295のファットなタイヤのグリップのおかげでトラクションもしっかりしている。もう少しATのキレが増せば...ということ以外はパワートレインになんら不満はない。

コースの折り返しで市街地を走っていると、さすがにFセグメントのボディの大きさを感じる場面もあった。いままでのように見切りが決して良いとは呼べないスタイルだから余計にそう感じるけれど、慣れるとそれが気にならないのは特にステアリングのタッチが軽いからだと思う。エクステリアを見せずに運転していれば、それがフロントにファットなタイヤを履いたクルマだとは思えない軽快感であることは間違いない。

ただ、勘違いしないでほしいのはそれは決してフィールがないという意味ではない。軽いながらも、舵角に応じたフィードバックがドライバーにもたらされる。帰路で試したダイナミックモードにするとステアリングの重さを増すとともに情報がより鮮明になり、私のようなドライバーはそれだけでさらに顔がにやけだす。


最初は悪態をつきながら、ドライブが終わったらすっかり惚れている...。昨年の“私的Car of the year”であるF-type SVR Convertibleとすっかり同じ状況になっていた。ただ、今回の印象はいまどき珍しいソウルフルなV8のフィールだけじゃない。一見すると激しいその見た目の中に、これまでのJaguarが大切にしてきたしなやかな乗り味がきちんと守られているという発見があったからだ。

今年のJaguarのハイライトは間違いなく電気自動車のI-paceだろう。私も一足お先に実物を見てきたのだけれど、たしかにこれはこれでなかなか面白そうだ。でも、音もなくさらりとなにかをこなすなんてちょっと味気ないじゃないか。そうやって自動車がどんどん進化をしていく中で、このクルマの置かれている状況がこの曲と重なった。


現在五反田で展覧会が開かれている泣く子も黙るレジェンドThe rolling stonesの”Sympathy for the devil”という曲だ。改めて歌詞を見直してみると古代の神話や歴史のメタファーが隠れているという、いかにもstonesらしい作品になっている。私のお気に入りは1960年代のライブテイクを集めた”Love you live”のパフォーマンス。ラテン音楽の影響が強いとされるこの曲のノリが最も強調された、ロックという壁さえも容易にぶち壊す圧倒的なパワーが感じられる。


この曲を聴きながらXJRを思い出すと、こいつがもうじき手に入れられなくなるという現実が迫ってきていることが悲しい。彼が纏うスーツは仕立ては一流だけれど、明らかにフツーのビジネスマンが着るモノではない。鍛え上げた肉体の存在を感じながらも、近づくと香水のほのかな匂いが漂う。実際に接してみるとふだんはおだやかだけれど、ここぞというときはその中に秘めた圧倒的なパワーを解き放つ。そんな悪魔のように魅惑的なXJRに、私は理想のオトコ像を重ねていたのだった。