【今回のワンポイント解説】(真田丸:6月19日放送分) | 人生竪堀

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TEAMナワバリングの不活発日誌

  北条軍の「箱根決戦構想」が崩壊したことにより、戦局の焦点は小田原城の攻囲戦へとしぼられていった。けれども、実際の戦いは決して楽なものではなかった。

 城を囲むには、戦術上のポイントとなる城外の地形を一つずつ押さえていかなくてならない。しかし、北条側も黙って眺めてはいないから、小競り合いや銃撃戦はひっきりなし起きていた。小田原市内で行われた発掘調査では、塹壕陣地のような遺構のなかから大量の鉄砲玉が見つかった例もある。北条軍が攻囲陣に夜討ちをしかけることもあった。
 このような状況下で秀吉軍は、力づくで小田原城の惣構えをこじ開けられないまま、ジリジリと消耗戦に引き込まれていった。宣教師のルイス・フロイスは、秀吉軍が深刻な兵粮不足に陥っていたことを報告しているし、徳川家康の家臣だった松平家忠の日記には、連日のように兵士の不祥事が記録されている。秀吉軍の士気は低下しており、両軍はどちらが先に崩壊するか、というガマン比べのような戦いをつづけていたのだ。

 さて、この戦いで秀吉が本営として築いたのが石垣山城だ。この城については、天守や高石垣を備えた立派な城が突然姿を現したために、北条軍が戦意を喪失した、と言われている。また、北条軍に秀吉の力を見せつけるための城だったように評されることも多い。
 けれども、本格的な築城を木立の中で秘密裡に行うことなど不可能で、築城地一帯の木はあらかじめ伐採してしまうから、石垣山に城を築いている様子は小田原城内からもよく見えたはずである。次に、石垣山城の縄張りをよく見ると、天守は小田原城からは見えにくい位置に築かれている。また、隅櫓をのせる櫓台がほとんどないので、天守と重層の櫓が林立する姿ではなかったこともわかる。
 さらに、石垣山城の天守台付近では、天正19年の銘をもつ瓦が、これまでに2点見つかっている。天守に瓦が葺かれたのは小田原の役の翌年だったのだ。秀吉軍が小田原城を囲んでいる段階では、城内の建物は板葺きで暫定完成と考えざるをえない。僕は、小田原城が開城した時点で、天守は未完成だったと思っている。

 北条軍の戦意をくじくためのデモンストレーションとして石垣山城を築いた、という話は伝説でしかない。まあ、このあたりの話を詳しく知りたい人は、やっぱり僕の『東国武将たちの戦国史』(河出書房新社2015)第10章を読んで下さい(笑)。

(西股総生)

《ワンポイントイラスト》


 
小田原城開城のギリギリまでお役所仕事な手続きを踏んでいた北条家。
氏直「やんぬるかな…(ポンポン) 」

(みかめゆきよみ)

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