“樹”
人もまた、一本の樹ではなかろうか。
樹の自己主張が枝を張り出すように
人のそれも、見えない枝を四方に張り出す。
身近な者同士、許し合えぬことが多いのは
枝と枝とが深く交差するからだ。
それとは知らず、いらだって身をよじり
互いに傷つき折れたりもする。
仕方のないことだ
枝を張らない自我なんて、ない。
しかも人は、生きるために歩き回る樹
互いに刃をまじえぬ筈がない。
枝の繁茂しすぎた山野の樹は
風の力を借りて梢を激しく打ち合わせ
密生した枝を払い落とす——と
庭師の語るのを聞いたことがある。
人は、どうなのだろう?
剪定鋏を私自身の内部に入れ、小暗い自我を
刈りこんだ記憶は、まだ、ないけれど。
これも吉野弘さんの詩です。
そして、次の詩もそうです。
“虹の足”
雨があがって
雲間から
乾麺みたいに真直な
陽差しがたくさん地上に刺さり
行手に榛名山が見えたころ
山路を登るバスの中で見たのだ、虹の足を。
眼下にひろがる田圃の上に
虹がそっと足を下ろしたのを!
野面にすらりと足を置いて
虹のアーチが軽やかに
すっくと空に立ったのを!
その虹の足の底に
小さな村といくつかの家が
すっぽりと抱かれて染められていたのだ。
それなのに
家から飛び出して虹の足にさわろうとする人影は見えない。
———おーい、君の家が虹の中にあるぞォ
乗客たちは頬を火照らせ
野面に立った虹の足に見とれた。
多分、あれはバスの中の僕らには見えて
村の人々には見えないのだ。
そんなこともあるのだろう
他人には見えて
自分には見えない幸福の中で
格別驚きもせず
幸福に生きていることが———。
幸せってどこにあるのか、
自分では分からないんだなってことを、
この詩を読んで、初めて考えました。
上の詩は今日初めて読みました。
人の中にあるエゴイズム、自我を枝にたとえ、
どうやってその枝を切り落とすのかという、
そういうことを描いたものなのです。
人と生きていく以上、自我を曲げること無く、
生きていくことは出来ません。
人との調和を考えなければなりません。
僕も頑固です。でも、自分を成長させるって、
必要な枝を残して、あとは捨てていくことなのかも、
知れないと思いました。
僕自身は、剪定鋏を心の中に入れて、
小暗い自我を刈りこんだことがあると思っています。
それは自己をより高く成長させるためだと、
そう信じています。
詩も散文も僕にとっては、かけがえのない先生です。
もちろん、全てが、です。
樹の自己主張が枝を張り出すように
人のそれも、見えない枝を四方に張り出す。
身近な者同士、許し合えぬことが多いのは
枝と枝とが深く交差するからだ。
それとは知らず、いらだって身をよじり
互いに傷つき折れたりもする。
仕方のないことだ
枝を張らない自我なんて、ない。
しかも人は、生きるために歩き回る樹
互いに刃をまじえぬ筈がない。
枝の繁茂しすぎた山野の樹は
風の力を借りて梢を激しく打ち合わせ
密生した枝を払い落とす——と
庭師の語るのを聞いたことがある。
人は、どうなのだろう?
剪定鋏を私自身の内部に入れ、小暗い自我を
刈りこんだ記憶は、まだ、ないけれど。
これも吉野弘さんの詩です。
そして、次の詩もそうです。
“虹の足”
雨があがって
雲間から
乾麺みたいに真直な
陽差しがたくさん地上に刺さり
行手に榛名山が見えたころ
山路を登るバスの中で見たのだ、虹の足を。
眼下にひろがる田圃の上に
虹がそっと足を下ろしたのを!
野面にすらりと足を置いて
虹のアーチが軽やかに
すっくと空に立ったのを!
その虹の足の底に
小さな村といくつかの家が
すっぽりと抱かれて染められていたのだ。
それなのに
家から飛び出して虹の足にさわろうとする人影は見えない。
———おーい、君の家が虹の中にあるぞォ
乗客たちは頬を火照らせ
野面に立った虹の足に見とれた。
多分、あれはバスの中の僕らには見えて
村の人々には見えないのだ。
そんなこともあるのだろう
他人には見えて
自分には見えない幸福の中で
格別驚きもせず
幸福に生きていることが———。
幸せってどこにあるのか、
自分では分からないんだなってことを、
この詩を読んで、初めて考えました。
上の詩は今日初めて読みました。
人の中にあるエゴイズム、自我を枝にたとえ、
どうやってその枝を切り落とすのかという、
そういうことを描いたものなのです。
人と生きていく以上、自我を曲げること無く、
生きていくことは出来ません。
人との調和を考えなければなりません。
僕も頑固です。でも、自分を成長させるって、
必要な枝を残して、あとは捨てていくことなのかも、
知れないと思いました。
僕自身は、剪定鋏を心の中に入れて、
小暗い自我を刈りこんだことがあると思っています。
それは自己をより高く成長させるためだと、
そう信じています。
詩も散文も僕にとっては、かけがえのない先生です。
もちろん、全てが、です。