とある12月、私はアメリカのペンシルバニア州ランカスター地方のアーミッシュの村のすぐそばにいた。その日は日曜日だったのでアーミッシュの男性は黒い服に黒い帽子をかぶってバギーと呼ばれる1頭立ての馬車に乗っていた。
アーミッシュの人たちは今も車を一切使わず、移動はすべて馬車で行い、アーミッシュ以外の人との交わりはバザーなどを除いてほとんどない。子どもたちの教育はアーミッシュのための小さな学校で行い、便利なガスや電気を使わず、多くは水車や風車のエネルギーを使い、広大な農場での自給自足生活を続けている。つまりアーミッシュとは現代文明を受け入れないで頑なに200年前の生活続けているキリスト教の一派。アーミッシュに生まれた子どもはアーミッシュの生活を続けていく。男たちは朝日とともに農場で働き、女たちは手で洗濯をし、縫い物など家事にいそしみ、夫の帰りを待つ。ただし彼らはアメリカ国民としての義務である税金を払うために、時々バザーを開き、余った農産物や手作りのキルトなどを売っている。
ここランカスター地方はアメリカのどこにでも見られる田舎町で、もちろん現代風なレストランや建物が立ち並び、たくさんの自動車が行き交っている。その道路をアーミッシュの人たちは馬車に乗ってゆっくり進んでいく。車は馬車を見つけると速度を落として追い越していく。両者の生活はほんの少しの接点だけで成り立っている。道のところどころに真新しい馬糞が落ちているのだが ・ ・ ・ 。
このような日記を書いたのはもう20年も前のこと。それはフィラデルフィア近郊の自閉症学校でTEACCHの研修をしていた頃に出会ったアーミッシュの人たち。今はどうなっているのだろうと、インターネットで調べてみたところ、やっぱり今も200年前と変わらない生活を続けていると
いうことだった。
当時もらったパンフを読み返してみると、次のようなことが書いてあった。
「あなたがアーミッシュの人たちと接した時、彼らは映画スターとか見世物でもなく、違った生活スタイルを選んで生活している人たちである、ということを思い出してください。どうか彼らのプライバシーを尊重し、彼らの土地に黙って侵入することを差し控えてください。」