夫が、、、突然、ふとつぶやいたー
「あの、たけのこの味噌汁、懐かしいなあ」と。
孟宗竹ではなく、細い柔らかい筍(*)の、皮をむいて適当な長さに
切ったものが、卵とじのようになっている味噌汁。
私の祖母がよく山からとってきて、作ってくれた春の味噌汁。
母も、自ら取ってくることもあれば、友人からのお裾分けのことも
あったけど、我が家の食卓によく出た。
春だけの味。
蕗のとう、
タラの芽、
こごみ(こごめ)
ぜんまい、
たけのこ、*姫たけ
わらび、
そして、よもぎで作る笹団子。
祖母はヨモギのことを、餅草と呼んでいたっけ。
春は山菜、、、。
雪国の春は、山が楽しい。
海苔の匂いがついた梅干しのおにぎり、、、
おばあちゃんの背中から降ろされた風呂敷には、ぜんまいや蕨がどっさり。
ぜんまいだったら、綿を取るのは私の仕事。
山から帰宅したおばあちゃんの風呂敷を開いて、姫タケノコがあると
嬉しかった。
そこには、春の美味しいものがいっぱいあった。
筍の味噌汁。。。
母の味はもう食べられない。。。
いつ何を食べたのが、最後だったか?。。。
母の手料理は、もう食べられない。
私が作った昔からの(実家の味の)雑煮をそれなりの出来だと
喜んで食べてくれたのは、3年前の正月だ。
うちの雑煮は、春に採った薇(ゼンマイ)を乾燥させておいたものを
もどして、焼豆腐やこんにゃく、竹輪と一緒に煮て作る。
雪国の山間の村の、冬の間に食べられるもの、せめてもの御馳走だった
のだろう。
*同じ町内で(母の実家など)ナルトやかまぼこを入れる家庭もあるようだ。
少し赤みが入ると色合いがよいのだろう。
ここ数週間、妹から食が細くなったと母の様子を聞く。
体重も歩みも動作も減速し、、、
増えたのは睡眠時間と休憩時間。。。
老衰のふた文字が苦しく哀しい。
筍の季節、、、春が来たというのに、
母は今、何を食べたいと思っているだろう?
食欲もないようだけれど、昔懐かしいものは食べたくなるんだろうか?
母は私の前を行く。
母は自分のことを老いて何の役にも立たない、何もできないと言うけれど、
そこに居て、老いていく姿を、その様子を見せてくれるだけでもありがたい。
母は私の先をいく。
その姿を見て、私も自分の先を見る。考える。
充分、役立っているよ、お母さん。ありがとう。
〜 了 〜
読んでくださってありがとうございます。
老衰の兆候など、検索してみると、まさに母の様子と一致。
覚悟を決めておかなくては、、と思う今日この頃です。
老衰まで無事に長生きできることは、ありがたい、幸いなことなんだと
思います。
ロンドンオリンピックの頃、母と病院で父を看取ってからもうすぐ12年。
またオリンピックがやってきます。
あれから母は、心細いと言いながら一人で暮らし、私たちの帰郷を楽しみに、
少しずつ老いていくのを感じながらも(ずっと実家で私を待っていてくれると
心のどこかで思っていた)いつか来るとは知りながらも、まだまだ大丈夫と思い
込んでいた…思いたかったのでしょう。
いよいよ、、、それでも、その時が来ることを考えるのは辛いし、目の前が
クラクラする感じさえします。
春の味と言っても、場所によって違いますね。
私の眺めるこの裏庭には、シダ植物が植えられていて(自生?)初めて見た時は
意外でしたが、嬉しさ、懐かしさもありました。
その後、森にも(欧州にも)たくさん生えていることがわかりました。
でも、ここに居たのでは、筍の味噌汁は食べられません、、、が、
〜筍の水煮の缶詰、〜姫筍の缶詰、探してみようと思います。