月曜日の朝だった。

 

夫を見送り外に出た時、トラムの駅の傍の自転車置き場の隣、少し空いて

いる場所に誰かがテーブルを出して、何かを売っているような様子が見えた。

知ってる人かな?と思って、数歩、近寄ったら、あちらが手を振った。

十中八九、私に向かって手を振ったのだと思い、近寄っていった。

 

小学生くらいの女の子と、おそらく妹(学齢ぎりぎり?)と、お母さん。

テーブルには、クッキーの袋、サンドイッチがラップにくるまれたもの、

チョコボール(柔らかいもので、この国の定番のスィーツ・おやつ)の袋、

紙コップとコーヒーのポット、エナジー・バーと呼ばれる小型のスィーツなどが

置かれている。テーブルの前には、価格表と、よろしくね!の案内。

 

何をしているの_?・と尋ねたら、お母さんが、

「経済の勉強。お金の仕組みを学ばないとね」(※)と答えてくれた。

学校の宿題でもなければ、授業から派生した体験課題のようなものでもなさ

そうで、個人的に行ってると。

通っているのは、ここから少し(トラムで10分ほど)離れた場所にある学校。

帰宅して、調べたら、モンテッソーリ系だった。この近所の子供たちのほとんどは、

もう少し近い公立に通っている。

 

「手作り?」などと少し立ち話をし、現金でも払えると判った。

クッキーもサンドイッチも手作り・・・。エナジーバーは買ってきたもの。

「じゃあ、財布を持ってくるから待ってて」と伝え、家に戻り、現金を探した。

ちょうど、以前、ランチをごちそうした(私がまとめて支払った)方から

頂いた現金があったので、それを持って駅の傍のテーブルに急ぐ。

 

私だけでなく、時々、駅に向かう人、降りてきた人がちらちら見て、

サンドイッチ(朝食用と書いてあった)を買ったりしていく。

 

私は、クッキー(一袋に五個)と、チョコボール(一袋に三つ)、

コーヒー(ミルクの要不要を聴いてくれたので入れてもらった)、

エナジー・バーを2本を頼み、合計50クラウン(約600円)。

 

コーヒーは、紙コップにちゃんと蓋をつけて渡してくれた。

 

「わざわざ戻ってきてくれてありがとう」とお母さんが言うので、

すぐそこだからと我が家(借家だけど)を指さすと、お母さんは

「うちは、そこなの」と、振り返って白い家を指さした。

「もしかして、二年前のハロウィーンの時に骸骨を飾っていた?」と

尋ねると、そうそう、、、という返事。

 

かなり近いご近所さんだった。

 

※この国では、住所を検索すると住人の名前(年齢)を知ることが可能。

但し子供については載っていない。 

日本で反対意見の多いマイナ…ンバー。この国でいう、ID(パーソナル)

ナンバーは、どこにいっても聞かれるし、これ一つで用が足りる。

透明・・・といえばいいのだろうか? 年収まで解ってしまう。

さすがに検索しても他人のナンバーは出てこないが、つまり、あれこれ

隠されない…。

彼らの考え方の一つに、”隠すということは、やましいことがある”ということ、

~これは、窓にカーテンをかけない理由(家の中を見えなくするのは、家の

中に見られたくない、何かがあるのかも、と怪しまれる)にも通ずる~と

みなされるとこの国の人から聞いたことがある。

=というわけで、帰宅して、検索し、住人の名前は分かった。

 

女の子の名前も聞いていないけれど、もしかしたら、ハロウィーンには

やってくるかもしれない・・・うちが、”そこ”だと判ったから・・・。

いや、去年も来たのかも?しれない~確か、女の子たちが魔女の服装で

やってきた覚えがある~。

 

それにしても、この国の小学生は、ちゃんと英語で会話ができる。

上手だとか、難しい言葉を使うという意味ではなく、躊躇わずに”話し”を

するという意味だ。エナジーバーが半額になっていたとは知らず、

「これ、10クラウンって書いてあるけど、一個5クラウンなの?」と

聞いた時、お母さんではなく、その売っている女の子が「半額にしたの」と

英語で答えてくれた。”We made it half.” と。

こちらの言うことが分かり、ちゃんと答えてもくれる(しかも過去形で)。

 

ホントは、朝食を抜いて、夕方までデトックス(プチ・断食)しようなんて

思っていた月曜日・ミルク入りコーヒーのテイクアウトと、クッキーまで

買ってしまったが(すぐに食べなくちゃいけないような品物ではないから

大丈夫)私にとっても好い経験だった。

 

2年経ってもご近所の顔が分からない・・・知らなかった、ともいえるが、

”経済の勉強”のおかげで、新たにご近所さんと知り合うことができた。

 

そんな幕開けだった今週・・・。

いつの間にか、台所の窓から見える植物の葉は、緑よりも黄色が増え、

赤く色づく蔦植物の葉に、緑色だった実が紺や葡萄色に色づいている。

昨年よりも紅葉の訪れが遅いような気がしていたが、そうでもない。

うちの庭には季節外れのモックオレンジやバラが咲いて、ラベンダーも

ミントもまだ花がついているけれど、やっぱり秋なのだ。

家々の庭にあるリンゴの木には赤く実ったリンゴがたくさん成って、

ナナカマドやローズヒップが庭にも道端にも・・・。

 

この夏、何度も行った船着き場のアイスクリーム屋は、今週末で店仕舞い

らしいが・・・。

来年五月の再開の頃、果たして私たちは、まだここにいるだろうか。

 

窓の向こうから声がする・・ふと見ると、春に設置されたトランポリンで

裏庭の隣家(Pさん宅)の男の子たちが飛んで遊んでいる。

一人多いから、友達かな。

たっぷり身体を動かして、日があるうちは日を浴びて、冬に備えよう。

 

来週はいよいよ10月。

この国の黄金の秋も今年が見納めだろうと思いつつ、通りをみる。

今日も、大きめの通りに出る門の家のポールに国旗がはためいている。

 

~ 了 ~ 

 

読んでくださってありがとうございました~。

 

※もう少し大きい学年になると、お小遣い稼ぎに、家の前でモノを売る

子供もいる。家の前で売店みたいな感じで売ったり、昨年我が家にも

やってきた少年たちのように蝋燭を売りに来たりする。

が、この女の子の場合は、お小遣い稼ぎではなく、何かを売ってお金を

得る仕組み等を学ぶためということ。

クッキーなどの材料費や入れる袋や紙コップの費用、全て用意して・・・。

人件費はさておき、簡単な子供の経済学習とはいえ、かなりの投資という

か、一緒に作業する親の労力も含め、その取り組みに頭が下がる。

 

 

蛇足)

この国では、英語の授業は、小学校に入って、3年生からだったかな?

始まる。幼稚園や低学年では、英語の授業はない。

(大家さんのお姉さんが小学校の校長先生、彼女から聞いた話)

でも、テレビやゲームなどで英語を見聞きし(字幕はほとんど付いていない)

それによって自主的に覚えることが多いそうだ。

昔は、ゲームやオンラインなどがなかったので、もっぱら映画や英語圏の

国のテレビドラマを見て覚えたそうだが・・・。

いずれにせよ、決しておしゃべり好きな(例えば、スペインやイタリアの人

たちは、誰とでも話すのが好きな、”おしゃべり好き”と評されるが)国民で

はないこの国の人たちだけれど、他人とこのようにコミュニケーションが

取れるのは、素晴らしいと思う・・・。

あとひと月、、、また小さな魔女たちがやってくるかもしれないから、

今度は私が、お菓子を用意しておこう・・・。(お終い)