最近の科学、技術の進歩、発展は凄まじいものがあります。その進歩、発展が、一国経済にとてつもない強い影響を与えていることに、人々は気づこうとしません。


 [スマートフォンについて]

例えば、この10年足らずの間に、瞬く間にスマートフォンが日本中に普及しました。

このスマホは、小さな機体の中に実に多くの機能を併せ持っています。

パソコン、カメラ、電話、電卓、ラジオ、地図、コンパス、辞書、辞典、音楽ダウンロード、電子書籍、電子新聞、電車バスの時刻表、気象情報、メモ帳、鏡、SNSなどなど。

これほどたくさんの機能を持った機械を、ほぼすべての国民が所有すると言う事は、すなわち、上に挙げたパソコン、カメラ、電話•••等は、もはや買う必要がないと言うことになります。

反対に、それらの生産、流通に関わっていた企業や商店は、大幅に仕事量が減ることになります。

現在、カメラやレコードCDを売る店は、ほぼ見られなくなりました。ここで働いていた人々は、一旦は失業したでしょう。

そして、それらを製造する会社も規模を縮小するか、消滅したでしょう。


昔のカメラはフィルムが必需品でしたが、これは、現在ほとんど製造されていません。かつての世界最大のフィルム製造外社コダックは、デジカメが誕生した時点で消滅しました。

世界中に数十万人の従業員がいたのですが、全員失業しました。

日本の富士フイルムは、業種を変えて生き残っていますが。


ここで私が言いたいのは、技術革新が進むと、多くの職種で仕事量が減少し、あるいは消滅することによって、職を失う人々が多数出たと言うことです。

「紙の本」が「電子書籍」に変わると、街の本屋さんが少なくなるだけではありません。

まず製紙会社の仕事が少なくなります。次いで印刷会社、製本会社、さらにインクの製造会社の仕事も少なくなります。

さらに、本を運搬する運送会社の仕事も少なくなるのです。新聞の電子化についても同じことがいえます。


スマートフォンが出現しただけで、産業界、経済社会にこれほどの変化を及ぼし、その上、働く人々から仕事を奪っていったのです。

さて、ここで反論が起きるでしょう。

「何を言うか!今の日本は、大変な人手不足と言われるではないか。お前の言うことはでたらめだ!」と。

いえいえ、玄田有司著「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」に次のような説明があります。

「多くの企業が、従業員に過酷な労働を要求する割に、賃金が安いので、彼らはすぐ辞めてしまう。そこで再び新しい人間を雇うが、これもやめてしまう、と言うことが繰り返されるので、有効求人倍率が高くなっているだけだ。このような統計を、単純に信用すべきではない」と。

なるほど、これでは有効求人倍率が高くなるはずで、実際は人手不足ではないことになります。


確かに、本当に人手不足なら、労働力の奪い合いが起きて、必ず賃金が上がるはずです。

これはやはり、スマートフォンの出現を代表するように、科学技術の著しい進歩が、人間の仕事を奪っていったと考えるべきです。

コンピューター制御の数々の生産設備、あるいは、ロボットやAI等の活用は相当なものがあります。

スーパーのセルフレジ、車の自動運転も徐々に始まっています。どうして、これで人間の仕事が減らないはずがあるでしょう?

何よりも、日本ではこの30年間、賃金が全く上がっていないのを見ても、それは証明できるでしょう。


みんな「少子高齢化、人口減少」と言う言葉に騙されているようです。たとえ人口が減ったとしても、それ以上に機械、コンピューター、ロボットなどの制能が高まれば、生産力はぐっと上がるのです。

人間の数だけを数えて判断してはいけません。


もっと衝撃的な数字を挙げてみましょう。

1990年の就業者数 6100万人

2020年の就業者数 6700万人

総務省「労働力調査」による。

なんとこの30年間で、働く人の数は600万人も増えているのです!!

その理由はおそらく、60代、70代の高齢者の多くが、健康で充分働けるので、パートタイムなどの仕事に就いていると考えられます。

全然人手不足では無いのです!


問題は一体どこにあるのか?

人手不足ではなく、人余り状態にあるので、賃金が上がらない→賃金が上がらなければ、消費すなわち需要が増えない→科学技術が進歩して、生産力すなわち供給力は増えるのに、需要は増えない→まさに日本は構造的にデフレに陥るしかない、いつまでたってもデフレから抜け出せない(現在のインフレは外的要因による、内的要因ではない) →需要が伸びないので、企業は儲からない→儲からないので従業員の給料を上げることができない、その上、過酷な労働を要求するようになる→従業員は会社を去っていく→一見人手不足のように見える。


結局我々は、科学技術の進歩を、豊かさ、繁栄につなげることができていないのです。