科学技術が進歩、発展し、生産能力が高まると、「一国経済は成長し、GDPは増大する」と言うことにはなりません。

なぜなら、機械、コンピューター、ロボットなどの性能が向上し、これらが生産活動に従事するようになれば、人間は仕事を奪われるか、あるいは、機械、ロボットなどの補助的労働、単純労働に降格してしまうからです。

必然的に、労働者の賃金は低下するか、現状維持にとどまるでしょう。


工場の中では、コンピューター制御の機械やロボットが、プログラムに従って、ものすごいスピードで正確にモノを生産します。

そうすると、人間はその機械やロボットを調整し、補助をする程度の労働しか、しなくなってしまいます。

かつてのような、優れた技能を持った熟練工は、必要なくなるので、高い給料が支払われる事はなくなります。

銀行では、顧客への応対は、ほぼATMがこなしてくれます。かつてのように、カウンターの内側にずらりと銀行員が並んで、応対することがなくなりましたが、それだけ人間の仕事がATMと言うコンピューターに、とって変わられたことになります。


スーパーに行けば、レジ係はセンサーで商品のバーコードを読み取るだけです。料金は客が機械に支払いを済ませます。

レジ係は、何の技能も必要ないので、高い賃金は得られないでしょう。

30年位前のレジ係は、商品の値札を見ながら、右手でレジのキーをものすごいスピードで打つと言う、離れ業をやっていました。これなら、高めの給料がもらえたでしょう。

大きな病院に行くと、受付の機械に診察券を挿入し、診察が済むと、やはり機械に対して料金を支払います。病院は、かなりの数の職員を削減できたでしょう。


以上のように、この20年、30年間で、科学、技術が急速に進歩したことによって、機械、コンピューターが生産現場において、優れた能力を発揮し、人間の労働を奪うか、人間の技能を不要にしたため、賃金が上がらなくなったのです。


賃金が上がらなければ、消費も増えません。GDPの6割を占める消費が増えなければ、当然GDP自体が増えるはずがありません。

したがって、科学、技術が進歩、発展すると、賃金が上がらなくなり、GDPも増大しなくなるのです。

これが、現在の日本の経済低迷の原因なのです。

それでは、科学、技術は進歩しない方が良いのか?いえいえ、そんな事はありません。科学、技術の進歩を、うまく経済の成長、すなわち豊かさに結びつけることができていないだけなのです。

科学、技術が進歩して、生産能力が高まれば、その生産能力に応じた消費能力を、国民が持てば良いのです。

消費能力とは、すなわち国民の所得が増えること、国民がお金をたくさん持つことです。

どうやって持つのか?賃金が増えないのだから、政府が賃金を補填するのです。科学、技術が進歩、発展して生産能力が高まるのに、それにふさわしい賃金の増え方をしないのであれば、政府が企業に成り代わって、賃金を支払えばいいのです。

そして、生産能力(供給)と消費能力(需要)を一致させれば良いのです。

その時、ようやく日本は長いデフレから脱却して、緩やかなインフレ、すなわち成長経済に戻ることができるのです。


「では、その財源はどこから持ってくるのか?」と聞くでしょう。

何の問題もありません。本来、政府は通貨を発行する権限を持っているのですよ。日本国において、唯一、政府のみがお金を発行することができるのです。

ところが、政府はこの権限を行使することをせずに、日本銀行に丸投げしているのです。

それなら、日銀がたくさんお金を発行すれば良いではないか、と言うでしょうが、日銀は民間銀行にお金を送り込むことができるだけで、一般社会に直接お金を送り込むことはできません。そもそも日銀が、人々にお金を渡しているところを見たことがありますか?

日銀は、銀行にお金を渡すことができるだけです。それから先は何もできません。

後は、銀行がいくら民間にお金を貸し出すかに、かかってくるのです。これがスムーズに行かなければ、せっかく日銀が銀行に送り込んだお金は、世の中に出て行きません。銀行にお金が貯まるばかりで、何にもなりません。


異次元の金融緩和(アベノミクスのこと)と言って、10年以上も日銀は銀行にお金を送り込み続けたが、その膨大なお金は銀行に溜まったままで、全然世の中に出て行きませんでした。

アベノミクスをやれば、2年で2%のインフレを起こすことができると言っていましたが、結局、10年以上たっても実現しませんでした。(現在のインフレは、戦争と円安によるもので、アベノミクスによるものではない)

日銀にできる事は、金利を上げ下げすることぐらいです。

世の中にお金を送り込む能力を持っているのは、日本国においては唯一、政府だけなのです。政府が国債を発行すると、その大半を銀行が買います。この時、銀行にたまっていたお金が、ごっそりと政府に移ります。

政府は、このお金を税収分と合わせて、歳出するのです。これによって、初めて世の中にお金が出ていくのです。銀行の中にたまっていた、行き場のないお金を世の中に送り込むことができるのは、今や政府しかないのです。

したがって国債発行は、政府の通貨発行と同じなのです。だから国債は国の借金ではありません。


こうして、世の中に潤沢にお金が出回るようになると、初めて景気が回復し、デフレがおさまって、緩やかなインフレに向かうのです。

そうすると、企業も収益が上がるので、賃金を上げることができるのです。

大企業はさておき、中小零細は世の中のお金が少ないから、収益が上がらないのであり、したがって賃金を上げることができないのです。

岸田首相は、企業に向かって「賃金を上げよ!」と叫び続けていますが、いえいえ、企業が悪いのではありません。あなたが手をこまねいて、しっかりと財政出動しないから、賃金を上げられないのです。


[マネーストック及びGDPの増え方]

(マネーストックとは世の中に出回るお金の量のこと)

1997年以降いかにマネーストックもGDPも増えていないか見てみよう。

 1997年より前の26年間

  マネーストックは10倍

  GDPは6.3倍


 1997年より後の26年間

  マネーストックは2倍

  GDPは0倍

 日本銀行「マネーストック統計」

 内閣府「国民経済計算」より