世の中に出回っているお金の総量を、マネーストックと言う(かつてはマネーサプライと言っていた)。


非常に初歩的な質問ですが、この「お金」と言うものは、どのようにして世の中に存在するようになったのでしょうか?

「それは簡単なことだ。日本銀行が発行したから存在しているのだ。」と答えるでしょう。なるほど、これは間違いではないが、正しいとも言えません。


正解は、民間銀行がお金(正しくは預金通貨)を発行しているのです。

個人や企業が銀行からお金を借りると、銀行はその金額を当人の通帳に印字します。それと同時に、銀行の帳簿の資産側にも、その金額が記入されます。

これで、銀行による「預金の発行」が完了します。この時、現金は全然動いていません。

この方法で銀行は、自行が保有する現金の額の数十倍の額のお金を貸すことができますが、それは何故かと言うと、ほとんどの個人、企業は、借りたお金をすぐに引き出して、持ち帰るような事はしないからです。

預金のままにしておいて、これを取引、決済に使うのであり、現金化する事はほとんどないからです。

以上を、「銀行の信用創造」もしくは、「預金創造」と言い、民間銀行の持つ特殊な能力です。

「お金」は、このようにして世の中に生み出されるのです。


今から70年前の1955年当時、日本のマネーストックは、4兆円程度しかありませんでした。それが現在は、1千兆円にまで増加しているのです。

どうしてお金がこんなに増えたのでしょうか?

それは、もちろん銀行が預金通貨を発行したからです。言い換えると、銀行からそれだけたくさんのお金を借りたのです。

企業や事業者や個人等が、膨大な額のお金を借りたから増えたのであり、もしだれも銀行から借りなかったなら、マネーストックは全然増えなかったのです。

これが「お金」と言うものの正体なのです。

したがって、バブル崩壊後、企業が銀行借り入れをどんどん返済し始めると、世の中からお金が消滅していき、デフレに陥ったのです。このデフレは、30年も続いています。

銀行は、借りてくれなければどうすることもできません。


では、このような状況で、中央銀行である日銀は何をしたのでしょうか?

日銀は、金利の上げ下げの操作をしているだけで、マネーストックの増減には直接的には関与していません。

金利を下げれば、銀行からお金を借りやすくなり、金利をあげれば、借りにくくなると言う操作をしているのです。

「それなら、日銀はマネーストックをうまく調節できているではないか!!」と言う反論があるでしょう。

いえいえ、あの有名な「アベノミクス」(日銀による異次元の金融緩和、ゼロ金利政策によって、2年程度でデフレを脱却し、2%のインフレを起こす)は結局10年たってもさっぱり実現しませんでした。


さて、日本銀行も民間銀行も、世の中のお金の総量をコントロールできないのであれば、一体誰がコントロールするのでしょう?

もちろん、それができるのは政府以外にありません。政府が国債を発行すると、その大半を銀行が買います。

すなわち、銀行からお金を借りたのと同じことになります。政府は、そのお金を財政出動(社会保障や公共事業などに)することによって、民間に流し込みます。

これで、マネーストックが増えるのです。

要するに、日銀には世の中のお金を増やして、デフレ脱却することはできなかったが、[ 政府による国債発行→財政出動]は、確実にお金を増やすことができ、デフレから脱却できるのです。そのためには、まだまだ国債発行額が足らないのです。


科学、技術が凄まじい勢いで進歩発展する社会においては、生産力もとどまることなく増大するのです。

その生産力に追いつくほどの、お金の量の増加は、政府による国債発行以外にないのです。

したがって、国債発行は通貨発行と同等であり、国債発行残高は、財政赤字の額ではなく、政府がいくらお金を発行したかの、記録でしかないのです。

問題は「生産力の増大にふさわしい、貨幣量(マネーストック)をいかに生み出すか」なのです。