思い出したくもない最悪な出来事。
その日、3DCGアニメ映画の『シュレック』を観に映画館へ行った。
しかし、映画開始まで、まだ時間があった。
その頃は今のようにインターネットで映画のチケット予約をできなかった頃だし、映画館のサイトで映画の上映時間を調べるなんていうことも出来ない時代だった。
その日は、なんだか酷く嫌な予感がしていた。
予知能力というのだろうか? ときどき、嫌な予感がして本当に当たることがある。
なんだか嫌な予感から逃れるために、映画館の近くの本屋へ行くことにした。
本屋で、そんな嫌なことは起きないであろう、安全な場所だと過信していた。
一階のコンピューター雑誌のコーナーで、Linux(コンピュータ言語のひとつ)の専門誌を立ち読みしていた。
すると、私の隣りでウロウロしている背が低くてメガネをかけているオヤジが目に入った。
いかにも頭が悪そうで、Linuxとは無縁な感じのジジイだ。こんな雑誌に興味を持つ筈がない。
無視していると、そのジジイは私の耳元で「チェッ」と大きな舌打ちをしてきた。人としてあり得ない失礼な態度だ。
どいて欲しければ「すみません」とか「ちょっと見せて下さい」とか、言い様があると思うのだが。
私はショックで、その場から数歩ずれたあと、雑誌を平棚に取り落とした。
Linuxに興味を持つような知性の高い人間であれば、人の耳元で舌打ちするなんていう不届きな真似をする筈がないのだ。
あのとき、殴ってやればよかった。舐められたのだ。今思い出してもムカつく。
それで、訳がわからなくなってエスカレーターで2階へ昇った。
その辺りで、ショックから怒りに変わった。
ぶん殴ってやろうと1階に降りたが、そのジジイはもう居なかった。
何なんだ、あのジジイは? なんで私に寄ってきた? まるで悪魔の化身のようだ。
そのあと、ムカついて仕方なくて、結局、映画は観ないで家に帰った。
未だに『シュレック』は観ていない。