2005年4月。
僕は高校生になった。
中学校の時に生徒会長をしたり、部活動もかなり厳しくやっていたこともあり、高校生活はできるだけ目立たないように、ゆっくりしようと決めていた。
だから、部活に入らず、帰宅部だった。
しかし、ひょんなことから、僕のこの計画は大きく狂うことになる。
僕が高校に入学したタイミングで、赴任してきた一人の先生がいた。
そして、その先生が僕のクラスの担任になったわけだが、なんと、重量挙げの元日本チャンピオンだったのだ。
昔から、体を鍛えることが好きだった僕は、折を見て、先生に話しかけることが増えていた。
「どうやって体を鍛えたらいいんですか?」
「重量挙げってどんなことするんですか?」
そんな質問をしているうちに、
「遊びがてらバーベル触ってみるか?」
と、先生からお誘いを受け、
「どんなんか見てみたいです!」
と答え、様子を見に行くことにした。
僕の通っていた高校は、プールの授業を廃止しており、緑色に汚れたプールと、誰も使っていない埃だらけの更衣室があった。
先生は、そのプールの更衣室に、自分のバーベルを持ってきていた。
昼休みに、同じクラスの生徒たち数人とプールの更衣室に行き、先生の指導のもと、初めてバーベルを握った。
それが、僕と重量挙げの出会いだった。
その後も、時々、お昼休みにプールの更衣室に遊びに行った。
ただ、はじめは一緒に来ていたクラスの友達数人は、次第に興味を無くしていったようだった。
そんな時、同じく帰宅部として一緒に下校していた仲の良い友達(以下、N君)に、
「実は今、昼休みに重量挙げやってるねん。一緒にやってみーひん?」
と声をかけた。
N君は暇そうにしていたため、
「おもしろそう!遊びに行くわ!」
と二つ返事で了承してくれた。
そこから、僕たちの重量挙げ活動はスタートした。
はじめは、昼休みに遊びに行くだけだったが、短い時間だと全く物足りず、次第に放課後にも練習するようになった。
先生とN君と、3人でワイワイしながら練習するのはすごく楽しかった。
そんな楽しい日々が続いていた時、先生から、
「一回、試合に出てみないか?」
と声をかけてもらった。
遊びでやっている自分が、まさか試合に出るとは全く想像していなかったが、なんだか面白そうだと思い、
「出ます!」
と軽い気持ちで返事した。
N君は、
「今の段階で試合は出たくない」
と断っていた。
重量挙げは、れっきとしたスポーツだ。
オリンピックの競技種目にも採用されている。
瞬発力、柔軟性、技術、他選手との駆け引きなどが必要であり、ただただ体を鍛えればいい、という類のものではない。
しかし、日本ではかなりのマイナースポーツであるため、競技人口は非常に少ない。
僕の住んでいる兵庫県の中でも、部活動として重量挙げをしている高校は、わずか10校程度だった。
そんな競技人口の少ないスポーツなのに、さらに、体重による階級分けがある。
当時は、9つの階級に分かれており、僕は小柄なので、一番軽い階級である53kg級で試合に出ることになった。
初めての試合でドキドキしたが、その試合では53kg級として出場したのは僕一人だけだったので、出場、即、優勝となった。
表彰状とトロフィーをもらった。
翌日の地方の新聞には、
「53kg級 第一位 山下 翼」
と、自分の名前が掲載された。
学校の全校集会でも、皆の前で表彰された。
出場者は僕一人だけだから、当然の優勝であるため、それだけ仰々しくされたことに恥ずかしさを覚えたが、それでも、なんだか嬉しかった。
そんなこんなで、毎日暇な僕たちは、遊びの延長線上で、夏休みも学校に通って練習するまでになっていた。
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