「前受校に進学する。受験は終了」と言い出した息子 | 中学受験相談所 副管理人アーカイブ

中学受験相談所 副管理人アーカイブ

LINEオプチャ「中学受験相談所」に常駐している副管理人です。(あるいは「中学受験語り合う部屋」の管理人)

このブログはそれらの部屋で書き込んだ、長文リプライの抄録です。中学受験の参考にしていただければ幸いです。

 

 

読者の皆様、ご無沙汰しております。遅ればせながら明けましておめでとうございます。

昨年は、4月上旬に長女の大学合格のご報告をしたあと、全く更新をしていませんでした。オープンチャットではずいぶんご質問にお答えしたのですが、そのご回答に追われてしまい、当ブログの管理まで手が回らず…

せっかく読者登録してくださった皆様、誠に申し訳ありませんでした。

今年の目標は「もう少しこまめにブログを更新すること」これに尽きます。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

さて今日は、時期的にタイムリーかと思いまして、先日オプチャに寄せられたご相談に対する回答を貼り付けました。テーマは「前受校に受かった息子が、そこに入学する、と言い出して困っています」です。

(Q)関西在住の小6です。関西最難関校を目指し、進学教室Sに通塾しています。先日、関西圏外の前受校を受験、無事特待生としての合格をいただけましました。ほっと一安心したのですが、予期せぬ事態が待っていました。本人が「この学校でいい」と言い出したのです。どうなだめすかしても「ここでいい」の一点張り。主人がきつい言葉で叱ると、売り言葉に買い言葉、ということもあるのでしょうが「特待なんだから親孝行だろう。早くしまっていたゲーム出してくれ」と言います。塾に相談しても、「まずは塾によこしてください」とおっしゃるばかり。(それはそうですよね…。来てくれないと説得のしようがないでしょう。それをなじる気は全くありません)

どうしたらいいでしょうか。

このご質問にお答えしたのが以下の文章です。例によって、最後は説教臭く感じられるかもしれません。面倒くさい、と思われたら途中で離脱ください。

(A)
数年前、僕も教えていた子が「前受校に入学する、もう受験は終了」と言い出し、家族で騒動になったことがあります。

その子は女子学院をめざし奮闘努力していました。近所の仲良くしていたお姉さんが女子学院に進んだことがきっかけで自ら中学受験をしたい、と親に言い、小4から大手塾に入室、机の前にリボンホルダーに「JG」と刺繍のある女子学院の式典服の写真を貼り、辛い時も苦しい時もその写真を眺めて頑張ってきました。

12月までの成績推移は、女子学院は5分5分より少し分がいい感じ。

受験校は1/14に浦和明の星女子を受験、そこに通ればあとは女子学院だけ。万一浦和明の星を取りこぼした時に備え、1/21に国府台女子(千葉)という態勢でした。

1/14の浦和明の星は、生まれて初めて挑む真剣勝負にガチガチになって受験。前夜、うとうとっと寝かけた時になにかの物音で目覚めてしまい、その後はほとんど寝られず朝を迎えたとの事。朝食も全く喉を通らず、心配したお母さんが無理やりゼリー飲料だけを飲ませて連れて行ったそうです。浦和明の星は毎年、2000人が受けるマンモス入試(?)ですが、東浦和の駅から学校までラッシュアワーの新宿駅のような混雑。その人の多さを見たら、彼女は泣き出してしまった。(たまに見かけますね、激励に行っても。ビビって泣き出す子。ガラスのメンタルの子を持つ親御さんはそんなこともあると思っていてください。そこで親がオロオロしたり頭ごなしに怒鳴ってもいいことはありません。落ち着くのを待つことです)

そんな心身の状態ながら彼女は頑張りました。終わるなりきっと落ちた、と言い、帰路、一言も口をきかず、家に帰るなり部屋にこもってしまった彼女。ホームページでの合格発表も、「いい。きっと落ちてるから。ママ見て」と見ようともしなかった程だったのですが、見事合格!

しかしそれが騒動の始まりでした。

発表の日の翌日に困ったお母さんからLINEで「女子学院を受けない、と言っています」と。えっ、とは思いましたが、実はこういう例はしばしば塾であることで、「またか」と言っては悪いですが、聞いた僕はお母さんほどは慌てません。

「何と言っていますか?本人は」
「何を言っても、『浦和明の星でいい』の一点張りで…。私がなだめても主人が怒鳴りつけても首を頑なに横に振るだけで…」

その場では、分かりました、じゃ僕の指導も前回までですね。おめでとうございます、と打ってLINEを閉じました。それ以降、日中を含めて彼女の指導は数回の予定があったのですが、まだその時点ではキャンセル扱いにしてそこに他の子を組むことはしません。今後どう変わるか分からないからです。

案の定、というか、やがて「先生の指導は続けてほしいと本人言い出したのですが、空いてらっしゃいますか?」とお母様から問い合わせが来ました。「正負の数や方程式の先取りをすればいいのですか?」とたずねると、「それが…今まで通りの指導をして欲しい、って言うんです」と。

この辺り心の揺れが出ていますね。

ご家庭に行って教えると、やはりそれまで通りの粘り、というわけにはいきません。それまでは本人用に作成したプリントを、放っておくといつまでも考えているのですが、再開後一回目の指導では20分くらいで「解けるものは解きました…」と、白旗を挙げました。

彼女らしからぬその淡泊さに少々ガッカリですが、詰っても仕方ないので「偉いね。受かっても、カンが鈍らないように難問に取り組むなんてなかなか出来ないよ」なんて褒めたのですが、なんとも複雑な表情をして下を向いてしまいます。

1/21の国府台女子は当然パス。しかし、その辺りから徐々に様子が変わってきました。以前と同じで粘るようになる。僕の解説が納得がいかないと突っ込むようになる。お母さんには「彼女、ひょっとすると、JG受けるかも知れませんよ」とだけ伝えました。

結局、本人がお父さんに頭を下げ、JGに臨むことを決めたのは1/25過ぎでした。
結果は合格して、終わってしまえば笑い話、なんですが、ご家族にとっては生きた心地のしない10日間だったでしょう。

恐らく彼女は怖かったんだと思います。あらゆることを我慢して3年間、目標としてきた学校にはねつけられるのが。「受けない」なら落ちませんから。

認知的不協和理論という有名な心理学の学説があります。簡単に言えば、「状況が変えられないのなら人は認知を変えて自己を守ろうとする」というものです。

新車を買ったユーザーは、購入前より明らかにその車を好きになることが調査でわかっています。もちろん、乗ってみて、思った以上にその車を好きになった、ということはあるでしょう。それがゼロとは言いません。でも、500万以上もする車をおいそれと買い換える訳にはいかない。車に対して不満があると、「認知的不協和」を起こします。(その車に失望⇔買い替えることはできない) その不協和を解消するには「好きになる」のが1番手っ取り早いのです。また、購入時に比較検討したライバル車に対して辛口なクチコミを好んで見るようになることもまた、知られています。

「認知の歪み」と切って捨てるのは簡単です。でも、私たちはそれでなくても辛い思いしんどい思いを日々している。手に取れなかった葡萄を「あれは酸っぱかったのさ」ということで精神の健康を保っているといえなくもありません。

前受の受験で死ぬような思いを味わって勝ち取った勝利です。ようやく掴んだ成功の果実。もっと大きい果実を取りに行けば拒絶され、傷つく可能性があります。そこで「私は実は、JGより浦和明の星に行きたかったんだった」と思ったのかもしれません。そんな彼女をどうして責められるでしょう。

さて、ご相談者さまのお子様ですが、上に書いた女の子のように試験が近づけばまたエネルギーチャージして挑むようになるのか。これは、分かりません。

そういうケースの方が多いことは確かですが、本当にやめてしまった子も何人もいます。
そしてその子たちの中には、前受校に進んで後悔をする子もいたことでしょう。

でも、それも、その子の人生です。その後悔もその後の長い人生の糧になると思うしかありません。

親は子より経験豊かですから、様々な落とし穴を予見できます。「親」という字は「木の上に立って見る」と書きますが、このまま進めば穴に落ちることは分かるから、ああせい、こうせい、とつい言いたくなる。でも、落ちて分かることもある、そして落ちて水びたしに、泥まみれにならないと分からないこともあるんです。

親は子が泣くのを見たくない。だから、先回りして忠告します。でも、聞かないのなら、落ちて泣いてもらうしかない。

その穴が奈落の底、地獄に繋がるような穴なら体を張って阻止しなくてはなりませんが、そうでないなら、落ちて気づくだろう、と諦めることも、これからの子育てには必要になってきます。

You can take a horse to the water, but you can’t make him drink.(馬を水辺に連れていくことはできても、水を飲ませることはできない)

子供は親の所有物ではありません。コントロールには限界があります。そう思って諦めることです。「お前のためを思って」というおためごかしで、自分のいいように支配するのはやめましょう。それは、毒親の第一歩です。

お子様が、試験が近づいてきた暁に再び立ち上がって歩きだすことをお祈りしますが、もしこのまま放棄をしたとしても、それもまた人生、と思いましょう。

※結局、このお子さんは、試験数日前に「ねえ、まだ受験票って印字できるのかな」と家族が仰天するような発言をし、本命校に挑んだそうです。結果は不明ですが、お母様は「これで本望」とおっしゃっていました。