芝国際の犯した大罪~炎上騒動の本質とは何だったのか。業界人の視座から振り返る~ | 中学受験相談所 副管理人アーカイブ

中学受験相談所 副管理人アーカイブ

LINEオプチャ「中学受験相談所」に常駐している副管理人です。(あるいは「中学受験語り合う部屋」の管理人)

このブログはそれらの部屋で書き込んだ、長文リプライの抄録です。中学受験の参考にしていただければ幸いです。

少々迷ったのですが、年度も変わろうとする直前の今、やはり今春入試の「芝国際事件」を総括しておいた方がいいのでは、と思い、いつものようにオプチャの質問に答える形ではありませんが、特別に記事にしました。

※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※ 


2月初旬、首都圏エリアの中学受験界の話題を一手に集め、関西在住のご父母さえもご存じだったくらいだった「芝国際事件」。(当時、Googleに「芝国際」と入力すると関連タームに「炎上」と出てくるほどでした)。しかし、その炎上の理由が実は意外と、知られていない、というか、「いや、そこじゃないでしょ」という違うポイントで語られる事も多く、ここで「なぜ芝国際が炎上したのか」そして運営主体者(学校法人)の何がいけなかったのか、あるいはどうすれば良かったのか、を明らかにしておくのは、今後、お子さんの受験に並走するご父母様方の利益に適うのではないか。そう思い、今回の記事をあげることにしました。


まず冒頭、当然のことですが、罪深いのは芝国際中学の運営主体者(学校法人)であって、受験生やそのご父母、ましてや、この春から通うことになった新1年生には何の科(とが)もありません。その点はくれぐれもご理解下さいますよう。


1.炎上までの経緯(何が問題だったのか)


さて、昨年入試まで低倍率に喘いでいた東京女子学園中高、校舎の建て直しを機にスクールコンセプトもガラリと変え、新たに「芝国際中学高校」という学校としてリスタートを切りました。


この芝国際、何しろ立ち上げメンバーが錚々たる面々。


東京都市大付属校長→村田学園(現・広尾学園小石川)校長

英理女子学院校長→宝仙学園理数インター広報部長→かえつ有明広報部長

鷗友学園校長

Google→順天堂大学大学院客員教授・東大アドバイザリーボード


そして、三田駅徒歩3分(ということは山手線「田町」からも至近)、NEC本社ビルの向かいに、12階建ての新校舎完成。インターナショナルスクールと同居などグローバルな学び、STEAM教育を標榜する今流行りの「国際」系。無理をしなくとも、十分に人気沸騰する素地はあった。まずはそこを見誤りましたね、先生たち。


一般に語られる、芝国際の炎上騒動は、以下の理由によるものです。


①尋常ではない高い競争倍率(しかも一度アップした受験生数・合格者数などが掲載された受験結果を、すぐに削除する、というリスク管理上、一番やってはいけない暴挙に出る)

②合否発表が、23時の予定だったのが何度か延長し、日をまたいで翌日に。(そのため、芝国際の発表を見て他校を出そうとした受験生が、日をまたいだ関係で間に合わなくなってしまった)

③試験終了後、保護者をアリーナに残したまま、子供をお迎えできず。担当者も消え、説明も無いまま、子供に会えたのは終了から1時間後。

④不合格再受験の生徒の眼前で、賑々しく合格者への合格証授与

⑤算数の出題ミス


このうち②~⑤は、不手際、また脇の甘さ(④)であり、もちろんあってはいけないことではあるものの、「炎上」するほどのことでもありませんでした。つまり言い方を変えれば、炎上したところにさらに注いだガソリンの役目はしたものの、発火理由になるほどの重大事ではなかった、と言えます。


問題なのは①


どれくらいの高倍率だったか。その学校がアップして慌てて削除した受験結果をご覧いただけたら一目瞭然なのですが、この画像、元がスクショなので著作権がありそうです。このブログを読んだ芝国際の先生が怒りの余り訴えたりしたら困るので、打ち直しました。見づらいとは思いますがまずはご覧ください。

(数字は合格者数/受験者数です)


2/1午前男子(2類)…5/107⇒21.4倍

2/1午前男子(1類)…8/39⇒4.9倍

2/1午前男子(CORE)…0/23⇒∞倍


2/1午前女子(2類)…2/100⇒50.0倍

2/1午前女子(1類)…13/47⇒3.6倍

2/1午前女子(CORE)…0/21⇒∞倍


2/1午後男子(2類)…4/265⇒66.3倍

2/1午後男子(1類)…17/73⇒4.3倍

2/1午後男子(CORE)…0/47⇒∞倍


2/1午後女子(2類)…9/205⇒22.7倍

2/1午後女子(1類)…7/54⇒7.7倍

2/1午後女子(CORE)…1/27⇒27.0倍


2/2午後男子(2類)…6/178⇒29.7倍

2/2午後男子(1類)…12/57⇒4.8倍

2/2午後男子(ADVANCED)…1/27⇒27.0倍

2/2午後男子(CORE)…3/10⇒3.3倍


2/2午後女子(2類)…5/119⇒23.8倍

2/2午後女子(1類)…7/50⇒7.1倍

2/2午後女子(ADVANCED)…3/24⇒8.0倍

2/2午後女子(CORE)…5/10⇒2.0倍


※合格者0の場合は、厳密には無限大ではなく数学的には「不能」だが、その記号がないので∞とした。


いかがでしょうか?


まあ、恐ろしい倍率がずらりと並んでいます。名目倍率ではなく実質倍率ですからね。


ちなみに、高倍率と言われる学校はどんな数値なのかと言うと、


渋谷渋谷の2月5日

男子⇒6.3倍  女子⇒11.2倍

市川の2月4日

男子⇒5.4倍  女子⇒10.0倍

都市大付属

2/1の2類  11.6倍


5倍で高倍率、7倍で超高倍率、10倍を超えたら絶望的。そんな中で上記の倍率です。


特に怒りを買ったのは、2月1日午前の倍率。まともなのは男女の1類のみ、女子の2類はたったの2人、COREに至っては男女共に0。合格者無しです。


普通は、2月1日午前といえば、その学校を熱望する第1志望者が受ける試験。その2/1午前で、20倍とか50倍とか0なんて前代未聞、空前絶後。ご父母が「金はいい。試験日を返してくれ。こんな異常に狭き門なら受けさせなかった」とお怒りになるのも無理は無いと思います。


声の教育社の受験直後の振り返り動画で三谷さんが「2月1日午前で10倍は、無いだろう」と言っていましたが、忖度なのか、数値を本当に勘違いしたのか分かりませんが、三谷さん、10倍どころじゃありません、20、50、無限大です。


ここで数少ない擁護派からはこんな書き込みがありました。


「高倍率は受ける前からわかっていたこと。直前になって回避する手段もあったはず。それを盲目的に突っ込んでいったわけで、自業自得」


確かに、日能研や四谷大塚のサイトで毎日志願状況は見られたわけで、言うことはある意味、理にかなっています。


2.決定的なミスリード


ところが、ここからが今回の騒動の本質ですが、学校側のミスリードがあったので、事はそう簡単な話ではありません。


まず(1) 説明会で学校側は「定員は少ないけど合格者をたくさん出しますから安心してください」と何度も語っていたこと。


オンライン説明会でも小野先生、おっしゃっていますね、ハッキリと。https://youtube.com/watch?v=vDt_xl9uFkw&feature=shares 



29分過ぎです。定員が少なくて不安だという質問に対し、「教室の方は中2・中3・高2・高3の方がまだ空いていますので、比較的ゆとりをもって合格を差し上げることができるのではないか


小野先生、リップサービスか、余計なこと言っちゃいました。「中2・中3・高2・高3の方がまだ空いています」って、学則定員を大幅に超えて出すのでは?と期待を抱かせるような発言。


これは推測ですが、こうして動画が残ってしまっている以上、都からも何らかのお灸を据えられたのではないでしょうか。


仮に今の新1年生で「中2・中3・高2・高3」の教室をいっぱいにしてしまったら、彼ら彼女らが上の学年になったらどうするんでしょ。募集停止するんでしょうか。そんなことありっこない。学則定員は絶対に守らねばならない「枠」です。それを超えてとったりしたら、補助金減額などのペナルティさえある。受験生を安心させたかったのでしょうが、結果的に「煽り発言」になってしまいました。


さらに

(2)営業部隊が各塾を回り、「定員は少ないが、多く合格者を出すので安心して受けさせてくれ」と言って回った


僕の勤める塾にも来ました。そして応接コーナーで「合格たくさん出しますから、安心して勧めてください」と言っているのをこの耳で聞きました。


もちろん聞く方もプロですから、学則定員を超えて合格者を出すとは思っていません。でもまあ、そう言うからには実質倍率5~6倍くらい、2/1午前は3~4倍になるように合格を出すのだろうな、と、聞く方は思います。


(1)(2)が相まって、上の表のようなかつてない、恐ろしい倍率になってしまいました。合格者数を見ると、「たくさん受からせる」は空手形だったことが分かります。2/1AMでたったの28人しか合格していないのですから。


3.めちゃくちゃな高倍率の原因


では、なぜこんな阿鼻叫喚入試になったのか。


これはどうやら、年内に行われた帰国生入試で合格者を多めに出したところ、その合格者の歩留まりが学校の読みよりはるかに高かったことが原因のようです。これは騒動直後の声教動画でも言われていました。また、森上教育研究所の森上展安先生も入試総括記事で同じ理由を挙げていたので、どうやらそれが真実なのだろうと思います。


以下、2/21プレジデントオンライン「首都圏「中学受験2023」を総括、入試最大の“話題校”とは?」より引用。


【こうしたもろもろの事態はなぜ起きたのか。今回の募集人員は130人ほどで、うち35人は国際生コースである。昨年末、実施の国際生入試で、かなりの数の入学希望者を確保していたことがまず背景にあるように思える。国際生コースのADVANCEDクラスが108人、COREクラス(COREスライド含む)が99人で、合計207人が合格している。(中略)


 この国際生の歩留まりが想定以上に良かったことがまず推測される。2月の一般生入試も志願者は殺到したが、一定の水準を確保するため、合格者を多く出す必要があまりなかったのかもしれない】(引用終わり)


一部には「露骨な偏差値釣り上げ」というような批判も散見されましたが、さすがに確信犯的に上記のような状況を作り出したのではなさそうです。(それにしても4月になって出される各塾の2023年度入試の結果偏差値はどうなるんでしょう。聞くところによれば開成〇、麻布〇で芝国際×の受験生も居たようで、そのまま補正せずに数値を出したらとんでもないことになりそうです)


それでさえ、下のような批判を浴びせられることになりました。




4.どうすれば良かったのか


ではどうすれば良かったのでしょうか。


僕は、少なくとも、塾にはアラートを出すべきだったと思います。


学校には声の教育社から提供された首都圏エリアの塾のデータベースがあるはず(それを基に営業かけているはずですから)。


FAXだって、一斉メールだっていい。「実は、あれだけお願いしておきながら慙愧に耐えないが、帰国入試の歩留まりが予想を超えてはるかに高く、ほとんど枠がない。ついては、ADVANCEDクラスは最低英検準1級レベル、COREクラスにおいても英検2級を有するお子さんでないと合格できないと思われたし。2類に関しても四谷大塚偏差値60以上でないと困難と思われる」とか何とか。それをテキスト(文字)に残したくなければ、手分けして電話をしたっていい。これまた前代未聞のお知らせでしょうけど、手段は何だっていいんです。「とにかく回避させなきゃ」  その気持ちが伝われば表現なんてどうだっていいと思います。


そうして「犠牲者」を一人でも減らすことは、「たくさん合格出しますから安心して受けるようにご父母に言ってください」と言って回った学校の最低限の責務でしょう。


学校が塾にアラートを出す、と言うとご父母の中には違和感を感じられる方もいるかもしれませんが、学校から塾に電話などがある、というのはそう珍しい話でもないのです。現に3年前、ある前受け校(千葉・埼玉入試)で、難関コースからのスライド合格を大量に出したことで多くの一般コースの受験生が弾き飛ばされてしまった時、学校の入試担当の先生から「ぜひ2回目入試を受けさせてください。悪いようにはしませんから」とTELがありました。


声の教育社の動画の中で「批判したって合格者が増える訳ではない(だからいつまでも批判をするのはやめよう)」と語られていますが、これは明らかにおかしな論法で、それを言ったら、人が亡くなるような重大事故の後に「批判したって亡くなった人が生き返るわけではないから、いい加減にやめましょう」ということになってしまう。


5.学校側に望むこと


大変残念でならないのは、現時点でも、今回の入試について学校側から何のステイトメントも出されていないことです。(合格発表と遅れと、出題ミスについてはホームページに掲載あり)


頬っかむりして、批判の嵐をやり過ごすのが学校の姿勢なら、僕ははっきり、その見識を疑います。


不利益を被った受験生がこれだけいる。彼ら彼女らは、未来を賭けて、人生を賭けて、受験に臨んでいる。「合格をたくさん出しますから」というその言葉を信じて、枠が0や2人の入試に突っ込んでいってしまったんです。


「世の中や誰かが動くのを待つのではなく、自ら行動を起こし周囲を巻き込む」ことを生徒に求め、「自ら未来を切り拓ける“真の国際人”になるための学び」を標榜しているのなら、亀のように手足と首を甲羅の中に引っ込め、嵐の過ぎ去るのをひたすら待つ今の姿勢を改め、今からでも遅くありません、責任の所在を明らかにし、原因の説明と謝罪をすべきだ、と僕は思います。それが貴重な入試日を無駄にした受験生とそのご父母への、せめてもの償いでしょう。