レインメーカーの悲劇 | ショートポエムforme

レインメーカーの悲劇

 この12年間、新日本プロレスのみならず日本のプロレス界全体に「金の雨」を降らしてきたオカダ・カズチカの功績は実に素晴らしいものがあった。オカダが70年にわたる日本プロレス史に刻まれる稀代のスーパースターであることに、異論を唱える者はいないだろう。しかしその超一級の実力とカリスマ性が、プロレス界の枠を超えて世間に届くことは最後までなかった。

 新日本の歴代のスター選手であるアントニオ猪木や藤波辰爾、長州力、初代タイガーマスク、獣神サンダー・ライガー、武藤敬司に憧れてプロレスラーを目指した者は数多くいるが、オカダはそこまでの存在にはなりえなかった。実際、今のプロレス会場に少年少女ファンはほとんど見当たらない(仮にいたとしても、その大半はプロレスファンの両親に連れてこられた子どもである)。現代の小学生に「オカダ・カズチカって知ってる?」と質問しても、80%以上の子は「知らない」と答えるはずだ。ましてや海野翔太や成田蓮のことを知っている小学生など皆無に等しいだろう。

 プロレスファンの多くはオカダならば、かつての猪木のような業界の枠を超えた「国民的スーパースター」になれると信じていたが、残念ながらそれは叶わぬ夢であった。たとえ今後オカダが全米で兄貴分だった中邑真輔以上のスター選手になったとしても、その熱が日本のプロレスに興味のない人々の元へと届くことは期待できない。大谷翔平が全国の小学校に送ったグローブと「野球しようぜ!」のメッセージは日本中の子どもたちに大きな夢と勇気を与えたが、オカダ・カズチカが送ってきたメッセージはプロレスファンの心にしか届かなかった。レインメーカーを「令和のアントニオ猪木」にできなかったところに、社会から見放された現代プロレスの悲劇がある。