ぐうたら弁護士の独り言

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静岡県東部で弁護士をしています。

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前回、憲法は国の最高法規であり、憲法に反する法律は効力を有しないというお話をしました。

今回は、実際に法律が憲法に違反して無効であると判断された事件を紹介します。

まず、法律が憲法に違反していないかということを誰が判断するかというと、それは裁判所です。小中学校の頃に勉強した「違憲立法審査権」というやつです。三権分立の裁判所→国会への監視制度ですね。

本論に入りますが、この事件は極めて悲惨な事件でした。以下、事案の概要を書きます。

ある女の人に降りかかった悲惨な事件です。その女性は、14歳の頃から、実父から性的虐待を受け、性行を強要され、しかも実父の子を5人も出産しました。出産した以外にも妊娠後複数の子を中絶しました。その女の人は自分が逃げれば妹に実父の矛先が向かうのではないか等の恐怖心から逃げることができませんでした。
女性は仕事に就き、職場である男性と恋に落ちます。その男性は、その女性の境遇を分かった上でお付き合いをし、女性は結婚を意識するようになります。
そして、その女性は、実父に、その男性と結婚したいと話します。これを聞いた実父は怒り狂い、女性を監禁して性行を強要するなどの行為に及びました。
その女性はこの境遇から逃れたい一心で、実父を殺害してしまいます。

女性は、「尊属殺人罪」に問われました。

「尊属殺人罪」とは、旧刑法の規定されていた犯罪です。簡単に言うと、目上の人(今回でいうと実父)を殺害した場合の罪です。尊属殺人罪は、法定刑が「死刑」か「無期懲役」しかありません。他方、「殺人罪(尊属以外の殺人)」の法定刑には、死刑、無期懲役の他に「有期懲役」もあります。

ちょっと難しい話になりますが、「尊属殺人罪」と「殺人罪」では処断刑において大きな違いがあります。「尊属殺人罪は、有期懲役が選択できないため、法律上、どんなに減刑して軽くなっても「3年6ヶ月の懲役」になります。他方、殺人罪は減刑すれば、3年以下の懲役を言い渡すことができます。
この「3年」がポイントなのです。なぜかというと、「3年以下の懲役刑」には執行猶予を付けることができるのです。
執行猶予とは、犯罪としては有罪だけれども、その刑を一定期間猶予し、猶予期間に真面目に生活して何も事件を起こさなければ、その刑は効力を失うというものです。
例えば、懲役3年、執行猶予3年という判決を言い渡された場合、判決と同時に釈放され、社会に戻れます。そして、執行猶予期間の3年間、何も問題を起こさなければ、先に受けた懲役3年の刑は受けなくてよい(服役しなくてもよい)ということになります。

つまり、尊属殺人罪が適用されると、最大限減刑しても執行猶予をつけることができない、つまり、3年6ヶ月は服役しなければならないということになるのです。

この事件で、女性の弁護人は、尊属殺人罪の規定は、殺人罪に比べて重すぎ、これは法の下の平等を定めた憲法14条に違反し、無効であると主張しました。
尊属殺人罪が憲法に違反して無効な法律となれば、それを適用することはできず、殺人罪を適用することになります。殺人罪が適用されれば、先に述べたとおり、減刑の事情が認められれば、執行猶予判決をもらえる可能性があるのです。だから、弁護人は尊属殺人罪は憲法に違反して無効なのだと主張したのです。

この事案は最高裁まで争われ、最高裁は、尊属殺人罪は法の下の平等を定めた憲法14条に違反して無効であると判断しました。親などの尊属を殺した場合の法定刑が、その他の殺人に比べて極めて重いことは法の下の平等に反する(法定刑にこのような大きな差を設けることは不平等である)との判断をしたのでした。

そして、最高裁は、可能な範囲で最大限の減刑をし、懲役2年6ヶ月、執行猶予3年の刑を言い渡しました。

そして、平成7年の刑法改正によって、尊属殺人罪は刑法から削除されました。

ちょっと長くなったので次回に続きます。