課税要件と総合考慮説-坂本勇人(さかもと はやと)の必要経費問題-(再検討して投稿)
坂本勇人(さかもと はやと)の必要経費問題で、数々の評論がSNSに踊っていますが、間違いだらけ、素人向けに易しく語ることは本当に難しいことが分かります。
そして、中には、総合考慮説と課税要件の区分さえついていないような幼稚な解説も含まれています。
>そもそもキャバクラの飲み代が経費になるのだろうか? 板山翔税理士は「経費になるかどうかは、その支出が仕事に必要かどうかによる」と語る。
結論から言うと、「経費になるかどうかは、その支出が仕事に必要かどうかによる」というざっくりした説明は誤りではありません。しかしながら、課税要件を全く理解していない説明になっています。
>「どこまでが経費で、どこからがプライベートな支出なのかは、所得税法では明確な定義がありません。飲食の目的やメンバー、頻度などを総合判断して、それが事業に必要であるという判断ができるなら経費になります」
総合考慮説とは課税要件と対になる考え方で、飲食の目的、メンバー、頻度など様々な考慮要素から総合的に判断します。どうやら、板山翔税理士は総合考慮説に基づいて「どこまで経費」か、「事業に必要」かを判断しているようです。
必要経費については、所得税法37条(必要経費)に明確な規定がありますので、総合考慮説により総合判断するべき内容ではありません。
つまり、課税要件を導いて、個別に判断していく必要があるのです。
「その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」(所得税法37条)と規定されていますから、「その支出と業務との結びつきの強さや支出の客観的必要性など」(佐藤英明『スタンダード得税法』第2版補正2版、2020年、274頁)から判断するという基準、課税要件が導かれます。
これを、文理解釈から導かれる課税要件といいます。課税要件とは、これこれ、こういう場合には課税される(されない)という条件のことであり、総合考慮説、総合判断の要素ではありません。いや、課税要件は総合考慮説、総合判断の要素とは対になる考え方と言って良いでしょう。
>その際、主に2つのポイントがあるという。 「ひとつは事業主の主観だけではなく、第三者から見ても事業に必要だと判断できるかどうか。もうひとつが、プライベートが混在していないことです。特に飲食代は、プライベートが混じっているとたいてい経費として認められないです。職場の後輩や取引先を連れて行くのはよいですが、そこに家族や友達などが同席していると経費として認められにくいです」
プライベートな支出(消費)と業務費が混じっている経費のことを家事関連費といいます。
明確な基準に基づいて、プライベートな支出(消費)と業務費を分けられるのであれば、家事関連費のうち、業務費部分は必要経費として認められます。
板山翔税理士の解説では、家事関連費の説明が抜けています。
どうやら、条文の内容を全く検討していないようです。
そして、肝心な所得税法37条の必要経費の文理解釈にも全く触れていません。
そして、ここがポイントかと思いますが、取引先はともかくとして、野球選手が後輩を連れて行くのが必要経費であるとは、どう考えても成立しにくい理屈です。
坂本勇人(さかもと はやと)の必要経費問題、易しく語ることは難しいことが分かりますが、「職場の後輩を連れて行くのはよい」とか「総合判断」とか「所得税法では明確な定義がありません」とか、条文から遠く離れて、安易に語るべきではありません。
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所得税法施行令第96条
家事関連費
法第45条1項第1号(必要経費とされない家事関連費)に規定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。
一 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費
二 前号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であつたことが明らかにされる部分の金額に相当する経費