ナチュラルと営業権 (のれん)

-営業権(のれん)のちょっといい話17-

(内容を精査して再掲)

 

これは、『M&Aと営業権(のれん)の税務』(税務研究会出版局 2000年)に掲載したものを、2024年3月、7月に改めて書き直したものです。

 

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私の大好きな映画の一つにロバート・レッドフォード主演の 「ナチュラル」があります。「ナチュラル」とは英語で「天賦の才」という意味です。 天才肌のベースボール・プレイヤー、ロイ・ハブスは若いときの女性関係の失敗がもとで長年ファーム暮らしが続き、何度も何度も挫折を経験します。

ロイ・ハブスがようやく大リーグに上がれたのは37歳のときで、たった1年間だけ大活躍し、若いときの怪我が原因となり引退するというストーリーです。 偶然ですが、私が税理士登録をして国際税務の世界に飛び込んだのも、ちょうど、37歳のときでした。

この映画はロイ・ハブスが子供時代に父親とキャッチボールをするところから始まり、野球から引退したロイ・ハブスが息子とキャッチボールする姿を、恋人で後に結婚するであろうアイリスが優しく見守るところで終わります。

後年「レインマン」「フェイク」等数々のヒット作品 で名声を得たバリー・レビンソン監督も、この作品を製作した1982年当時は全くの無名であり、この「ナチュラル」という映画も日本ではヒットしませんでした。

しかしながら、「ナチュラル」は、シンプルではありますが実に力強いストーリー展開、四季の移ろいと気候に敏感な映像構成、優雅なメロディの音楽選定、グレン・クローズをはじめとする後年有名になる才能溢れる脇役連等バリー・レビンソン監督のメッセージがはっきりと読みとれる作品です。

企業 (組織)が営業権 (のれん) を蓄積するには企業 (組織) に属する人々の長年の努力が必要です 。 しかも、企業 (組織) が営業権 (のれん ) を蓄積するためにはただ、「長年の努力」だけでは駄目で、企業(組織)に所属する一人一人の、「好き」と並んで「ナチュラル」も重要な要素であると私は思います。

その分野が「好き」で「長年の努力」をしても芽が出ないのならば、その分野からの早期撤退を考える必要があるのですが、踏ん切りがつかない個人と企業(組織)が大部分だと思います。

その一方で、すぐに諦めてしまう、口だけ達者で、継続的な努力を放棄してしまう同業者を私は大勢見てきました。「論文を書く」「書籍を出す」と言いながら、何もやろうとしません。有言実行ならぬ有限不実行、これではいつまで経ってもその他大勢の税理士から一歩抜きん出ることはできないでしょう。

そして、日々の努力を怠れば、「ナチュラル」の要素は、仮に本人の中にその要素があったとしても、少しづつ確実に本人から遠ざかって行き、営業権(のれん)の形成には程遠いと思います。

私は、行き詰まったり、落ち込んだりすると一人で「ナチュラル」のビデオを観ることにしています (ああ、 我ながらなんて暗いんでしょう!もう何回観たことか、トホホのホ)。

当たり前の話かもしれませんが、銀幕の中のロイ・ハブス役のロバート・レッドフォードと恋人アイリス役のグレン・クローズは若々しくて、いつまで経っても歳をとりません。ビデオを見るたびに、この作品を製作したバリー・レビンソン監督や主人公のロイ・ハブスのように自分自身の営業権(のれん)を少しずつ蓄積しようと思うからです。

でもねえ、将来、税理士として大成功したとしても、ロイ・ハブスのように1年で消えるのは絶対にいやだよなあ。