営業権(のれん)の税務はそんなに難しいのか?

 

営業権とのれん(暖簾)を分ける意識を持てば営業権(のれん)の税務はそんなに難しくないはずですが、多々混乱があるのはなぜでしょうか?


原因はハッキリしています。

 

多くの営業権(のれん)の解説が、中身を理解せずに何か他人の文書を写している可能性が高いのではと思います。

 

税務通信データベース2990号(2007年10月29日)の

成松洋一「<税務相談>法人税《事業の譲受けに際し生じる営業権の企業会計と法人税の処理》」に次のような記述があります。

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(営業権ないしのれんの意義)

1  一般に営業権は「のれん」ともいわれ,なんらかの独占的条件によって生成される超過利益獲得の機会であると解されています。その独占的条件として,①人的条件(経営者や使用人の才能,技術,性格),②法的条件(法令による独占権),③自然的条件(営業所や製造工場の地域),④資本家的条件(合同,連合,コンツェルン)などがあります(高瀬荘太郎著『暖簾の研究』森山書店・昭和6年・29頁~30頁)。

この②法的条件により生ずる営業権として,繊維工業における織機の登録権利,許可漁業の出漁権,タクシー業のいわゆるナンバー権のように,法令の規定,行政官庁の指導等による規制にもとづく登録,認可,許可,割当て等の権利を取得するために支出する費用などが考えられます( 法基通7-1-5 )。

2  一般に営業権ないしのれんが認識されるのは,合併や事業譲渡など一の企業や事業が全体として譲渡される場合です。単に土地や建物などの資産が個々に譲渡される場合には,ふつう営業権は認識されません。

しかし上記の法的条件により生ずる営業権は,合併や事業譲渡などの場合に限らず,土地や建物などと同じく,独立した資産として取引される慣習があるものです。このほか,顧客リストや特許で保護されていない技術,データベースなどが考えられます(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針58,59参照)。

その意味では,営業権は独立した資産として取引される慣習がある営業権と人的条件や自然的条件などによる超過収益力としての営業権があるといえましょう。後者の営業権が一般に「のれん」と呼ばれているものです。

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唐突に、高瀬荘太郎『暖簾の研究』(森山書店 1930年)が登場しますがなぜでしょうか?

 

営業権(のれん)の生成と成立の源泉になる4つの独占的条件の中身を理解しているのでしょうか?

 

高瀬荘太郎の優れた指摘である営業権(のれん)の生成と成立の源である4つの独占的条件を記述した後、「②法的条件により生ずる営業権」として法人税基本通達7−1−5の法律に準ずる営業権(のれん)を記述しています。

 

「法令の規定,行政官庁の指導等による規制にもとづく登録,認可,許可,割当て等の権利を取得するために支出する費用」を私、細川健(ほそかわ たけし)は⑴純粋に法律的な営業権(のれん)と⑵法的規制を基礎に置く又は法的規制から派生した営業権(のれん)と名付けました。⑵には、これ以外にも、砂利採掘権が含まれます。

 

法人税基本通達7-1-5に定められる営業権(のれん)を独立した資産として取引される慣習のある営業権( 法令123の10③ )と考えているようですが、それに加えての、「顧客リストや特許で保護されていない技術,データベース」とは、一体全体、何を指しているのでしょうか?

 

何か別の文書をそのまま映している可能性が非常に高く、移転価格税制上の無形資産との混同があるのは既に指摘した通りです。

 

議論が完全に破綻しているのは次の部分です。超過収益力の源泉として高瀬荘太郎『暖簾の研究』(森山書店 1930年)は4つの独占的条件を並列的に指摘しているはずです。

 

「営業権は独立した資産として取引される慣習がある営業権と人的条件や自然的条件などによる超過収益力としての営業権があるといえましょう。後者の営業権が一般に「のれん」と呼ばれているものです。」

 

超過収益力の源泉となる独占的条件として①人的条件(経営者や使用人の才能,技術,性格),②法的条件(法令による独占権),③自然的条件(営業所や製造工場の地域),④資本家的条件(合同,連合,コンツェルン)は並列的に指摘されているのですが、どうやら、②法的条件を取り出して「独立した資産として取引される慣習のある営業権」( 法令123の10③ )と考え、あろうことか、①人的条件と③自然的条件をのれん(暖簾)と記述してしてしまっています。

 

完全に議論が破綻してしまっているのは、差額概念説で導かれるのれん(暖簾)を「人的条件や自然的条件などによる超過収益力としての営業権」と記述していることから明かです。

 

⑴差額概念説と通説である⑵超過収益力説の中身を理解せずに何かをコピペしている可能性が高く、法人税基本通達7−1−5を中心にする⑶営業機会取得説にも移転価格税制上の無形資産が混入してしまいました。

 

本当に、やれやれな話です。