臼倉真純の所得税法上の営業権にかかる一考察の「ふくみ営業権」とは何か?

 

臼倉真純の「所得税法上の営業権にかかる一考察-国税不服審判所平成22年6月30日裁決を契機に-」に接しました。

 

税理士事務所営業権事件については、最も的を射た優れた論文です。

 

他のモラルのない税理士とは違い、細川健の書籍や論文を尊重して、適切な引用を施している優れた論文です。

 

しかしながら、「ふくみ営業権」という独自の概念を記述してその概念定義が曖昧模糊なために、相続税法上の自己創設暖簾との差が不明確で、肝心な部分の議論が疎かになっているのは非常に残念です。

 

国税不服審判所平成22年6月30日の裁決は次のとおりです。「次のとおり、本件税理士事務所において他の税理士事務所を上回る収益 を稼得することができる無形の財産的価値を有する事実関係を認識すること ができないことから、本件税理士事務所に営業権若しくはこれに類する権利 が存在していたと認めることはできず、したがって X の主張は採用するこ とができない。... 一般に税理士は、委任又は準委任の主旨に従い、専門的知識と経験、技能を駆使して、委任者又は準委任者の税務事務を処理するものであるが、税理士が業務を行うについて執るべき法律的、会計的手段は、その職務の性質 上、一律に定まるものではなく税理士の経験、知識、法律、会計的な技能に より左右されるものである。... このように、税理士のノウハウ、顧問先との信頼関係は、当該税理士個人 に帰属し、一身専属性の高いものであり、税理士とその顧問先が両者の委任契約の上に成り立っていることからすれば、当該税理士を離れて営業組織に 客観的に結実することにはなじまないものである。...」

 

臼倉真純は、「裁決は個人のノウハウや信頼等が個人から分離できるか否かの観点から譲渡所得該当性を判断しているのであって、個人に内在する含み営業権に相当する部分の資産性そのものを否定しているわけではないと読むことも可能ではなかろうか。 ノウハウ等から得られる収益の独占性によって営業権を理解し得る可能性を述べてきたが、本件裁決は、当該含み営業権の資産性については否定していないようにも解される。」(95頁)と記述するが、含み営業権と自己創設暖簾との定義の差が御自分の中で整理できていないようです。

 

個人から分離できない資産は譲渡の起因となる資産ではありません。

 

相続税法上の自己創設営業権として形式基準である財産評価基本通達165と166の計算の対象になっても、分離できなければ所得税法上の取引の対象にはならないのです。

 

譲渡されたのは営業権、それは、⑴当該税理士を離れて営業組織に 客観的に結実することにはなじまないものと、⑵測定可能性、分離可能性及び譲渡(移転)可能性のある従業員部分に分けて考えましょう。

image