11.「最初の異変とその対処法、はたまた賛成じいさん」
というわけで、早速、この地方都市の貸本屋業者(約三十軒ある)が集まって、
貸本屋業者営利協同組合を結成するに至った。
まずは、当面の議長としてはぼくが選ばれた。
そして、その第一回の集会で、ぼくは次のような見解を述べたわけである。
「
これは、おそらく首都におけるまんがの出版形態、
いやそれらをも含めた全ての出版物の流通機構が根本的な変革を受けたものだと、
わたくしは思うわけであります。
〝浮遊移動出版社のシステム〟については、
おおむね皆さん職業上のことから御存知であるとは思いますが、
以下の説明のために、再度申し上げるとなると、こういうことになるのであります。
御存知のように〝浮遊移動出版社〟というものは、
まんが家志望人口に対する出版社数の絶対的な少なさという、
まことに実際的なところから発想されたシステムであります。
それはどういうことかといいますと、仮想上の原稿の海に浮かぶ一種の船にも例えられまして、
その船はその原稿の海を浮遊することによって、
自己の存在を維持し、
かつまた出版社としての機能を果たしうるものだということであります。
ここで、今、〝仮想上の〟という言葉を使いましたが、
それはあくまでも比喩的なものであるということに留意してください。
それは、仮想的と申しましても、蓋然度何パーセントという言葉に置き換えられるのでありまして、
決して〝非現実的〟という言葉にとってかわるものではないということであります。
これより、われわれがその〝浮遊移動出版社システム〟のメカニズムを想定しますに、
それが情報工学の最先端を駆使した極めて現代的なものであるということになるわけです。
すなわち、〝浮遊移動出版社システム〟とは、
各エリアに散布した高感度の情報収集センサー端末と、
高度な瞬時判断能力を備える予知機能プロセッサとによって形成された、
もっとも先鋭的な形のオートサイバネティクス機構であるというふう、
わたくしは理解しているのであります。
つまり、そのことによって、〝浮遊移動出版社〟は船の形に比喩され、
そのエントロピー密度の多寡によって存在確率指数が決定されるわけであります。
そこまでよろしいでしょうか、皆さん
」
そこで、ぼくは、あらためて集まった面々の顔を眺め回した。
いずれも、五、六十才過ぎの人生にくたびれたといった手合いの顔をした連中ばかりであり、
ぼくの話を理解しているのか、
あるいは理解しようと努めているのか、
さっぱりわからなかったからである。
結局、この面々のうちでは、ぼくがもっとも最年少だったのだ。
話を切ったところで応答の声が上がらないので、ぼくはこのまま話を続けようかどうか迷った。
理解されていないのでは、いくら話したところで、空しいだけだからである。
そこへ、席の後ろの方から声が上がった。
「
あんたの話はとてもわかりやすいよ。
わしらはもっとあんたの話を聞きたいように思っているんだ、なあ、みんな
」
それを言ったのは、七十をとっくに過ぎたような農民風な男であり、
どう見ても頭がよさそうには見えなかった。
しかしながら、皆が不承々々に頷いたので、先を続けざるを得なかった。
「
というわけでありまして、今回のこの異常事態につきましても、
特別に何らかのカタストローフが起こったと見るよりも、
むしろ今まで行われてきた〝浮遊移動出版社システム〟が、
その最終的な形態の確立をなし遂げたと見るほうが、
より適切に思われるわけであります。
つまり、出版産業は、そのオートサイバネティクス化を経て、
従来の物流先行型産業の形から、
より形式的に自由な情報先行型産業の段階へ移ったものと思われます。
これは、おそらく首都における経済形態が、新しい時代の幕開けを開始したものと考えられ、
いまのところは単に出版産業のみに限られていますが、
これに続いておそらく映像システム、
教育、マスコミ、更に運輸、流通、サービス業等の現業の全てが、
根本的な変革を受けるものと考えなければなりません。
したがって、われわれもこの新時代の幕開けに即応した、
新しい形態での貸本業の継続を行っていかなければならないと考えるわけでありますが、
それについて皆さんはどうお考えでしょうか
」
(続く)
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