あれは2日前のこと
お客さまの仕上げにドライヤーを手にしたとき
聞いたことのある声がお店の中に広がった
「ねーちゃん、老けたなぁ」
はぁぁぁぁぁ????
20数年ぶりにあったのに第一声がそれ?
「ふんっ。あんたも充分に年を重ねた顔つきになったよ」
自動車の部品を作る工場が東北からの高校卒業した男の子を大勢受け入れていた
あの頃は楽しかったなぁ
うちの両親のことを親のように慕って
毎月25日になると給料を手にもって、交代でつぎつぎカットにやってくる
「ここに来ると誰かいるから」っていいながら集まってきていた
そしてなかなか帰らない
お店には笑いがたくさんあふれていた
その工場も茨城県に移転して
事務所のみが本社としてその場に残っていた
その事務所も移転が決まっていよいよ取り壊しが始まった
「あそこに会社がなくなるとさみしくなりますね~~~」
そう話してくれたのは
青森からやってきた身体の大きな男の子
男の子は長い月日を経て気がつけば52歳になっていた
あたしは、その子が18歳のころからずっとカットを担当させてもらっていた
34年間ずっ~と…
茨城移転の話が出た時にもついていくことを辞めて、ひとり神奈川に残ることに決めた
綾瀬に移り住んで、新しい仕事場を見つけた
その間もずっと通ってきてくれた
毎年、12月31日のお昼頃
「今年最後のカットに来たよ、おねーちゃんお誕生日おめでとう」
って
弟のようになついてくれるのが可愛かった
リラックマが好きなのも可愛かった
でかい図体で、可愛かった
地震が来れば「だいじょーぶか?」
雨が降れば「かわりはないか?」
うちに帰るときには決まって
「おとーさんとおかーさんによろしくね」
「おねーちゃん、身体に気をつけるんだよ。丈夫じゃないんだから」
「ちびっ子たちも大きくなったなぁ」
「おっ、親孝行するんだぞ」
「オレもね、とーさんとかーさんに親孝行しないとなぁ」
なのに、ね
なのに…
一人ぼっちで旅立って行ったんだって
ある日突然
誰にも声かけないで逝っちゃった
その事態を飲み込めなくって
心がじたばたしてる
声かけてほしかった
お別れ…したかったなぁ
ちゃんとお別れしないといつまでも心がついていかない
愛森に行こう
きっと探し出す、あの子の実家
そしたら心の中でつぶやくんだ!!!
ばぁ~かっ…って
そう…
ば~ぁぁぁぁかぁぁって
Fin