舞台は1863年のアメリカ南部、南北戦争の時。戦争での殺戮、農園に買い取られ性的虐待や暴力に苦しむ奴隷、暴力、命がけの逃避行など、読んでいてかなりきつい物語ではあります。
2024年エドガー賞受賞作なので一応ミステリです。農園主が惨殺されてその犯人は?
しかしこの作品はミステリの枠をはるかに超えて、人間というものの恐ろしさ儚さ、あるいは強さ、美しさ、また希望というか、人智を超えるものの可能性など、強烈に描いてみせてくれます。
主な登場人物が6人。
傷痍軍人ウェイド。敵兵を戦闘中でなくひょんなことから刺殺してしまった事実に苦しむ。
ゲリラ的軍団を率いる、狂気的に奔放なヘイズ大佐。梅毒のため顔がくずれている。
南軍から任命されて動く巡査ピエール。
女奴隷ふたり。生き別れの幼い息子を求めるハンナと、もうひとり美しくも逞しいダーラ。
奴隷制廃止のために働く女性フローレンス。
(それから、人ではないがピエールの愛馬ヴァリーナ。出番は多くないが個人的に気になった大切な存在)
物語は章ごとにこの6人の一人称で語られていきます。それもこの小説をより深いものにしていると思います。語られるのはしかし、戦争のむごさ、暴力、創痍や病気、奴隷、人の欲望や傲慢等々・・・![]()
そしてたどり着いたラスト。これは一体なんというシーンだろう・・・思いがけない、感動のラスト。いや、その前の二つの章、ハンナとフローレンスの語りから確かに繋がっているのですが、この小説の価値を一気に高めるような(と私は思った)眩しい輝きがそこにはありました。
この小説から強烈に思い出した映画作品があります。ユーリのベスト映画のひとつ、「プレイス・イン・ザ・ハート」という古い作品ですが、不条理なきつい状況に喘ぎつつ戦う人々が描かれますが、そのラストも驚きの別次元でした。
この映画もこの「破れざる旗の下に」も、特にラストは人によっていろんな感じ方があると思いますが、(ミステリとしての、農園主殺害の真犯人についても)、いずれにしても奥深い力を持った素晴らしい作品だと思います。
