J.M.クッツェー(ユーリにとって最重要作家のひとり)によるこの本を今年最初の読本にしよう、と期待して読みました。 が、・・・
100年以上も昔の話です。アフリカ南部の奥地に広がる農場に暮らす主人公の女性マグダ。
ネタバレになりますが、この女性による父親殺しの話です。
ネタバレとは書きましたが、彼女はその継母も殺害した。 ??
物語は、父親が若き後妻を迎えるところから始まります。
”今日、父が新しい花嫁を連れ帰った”
しかし読んでいくと、??そもそも後妻はいない?
マグダの独白で綴られる、混迷の物語です。
実の母親はずっと昔に亡くなっていて、マグダには母の記憶は無い。が、男子を生まなかったせいでその夫から冷たくされ死んだ、と彼女は思っている。
隣家もはるかに遠いような地にあって、寡黙な父と使用人たちだけの孤独な人生を生きてきた。特に、異性との交流は全くない。
”わたしは生きて、苦しみながら、ここにいる。”
使用人のひとりが若い妻を迎え、父親はその女に物を渡したりして近寄り、やがてベッドに連れ込む。一部始終を知るマグダの嫌悪はふくらんでいく・・・
というような、暗い話ではあります。ですが、1ページ目からその素晴らしい文章に惹きつけられ、マグダの脳内世界?に没頭してしまいます。
実は読み始めてすぐ、面白い感想がうかびました。この小説によく似た作品がある・・・・
「不快な夕暮れ」という若い女性のデビュー小説ですが、非常に好きな作品でした。こちらは主人公はまだ少女、でも同じように家庭が何気に混乱していき、心の不安定が止まない。ストーリーというよりその書かれた世界の空気がそっくりなのでした。驚いたことにはラストまでもが・・何というか、主人公は静かなその場所に入っていって、そうして自ら扉を閉じる、みたいな終わりですww
いずれも秀作、でも読む分には合わない人も多いかも。生々しく不快な描写も多いです。
新作かと思って読みましたが、実はずっと昔、著者が30代の頃に書かれた作品の新訳本でした。翻訳がくぼたのぞみさん、クッツェーの作品の大多数を訳出し、また長年に渡って著者の友人でもある方です。素晴らしい翻訳だと思います。
本の原タイトルはIN THE HEART OF THE COUNTRYなので「その国の奥で」はそのままの訳ですが、初版の時は「石の女」というタイトルで出されました。石の女、うまずめという意味合いもあると思います。奥地に隔離された様な生活、恋や性愛といったものに縁遠いという焦燥、一方で無意識で存在できている?自然への想い等が、過剰な言葉で語られ続けます。
石といえば、作中、空に飛来する謎のマシンに応答するために、地上絵ならぬ文字列を石を大量に並べて作るのですが、これはSFではなく・・妄想からの行動ww
というわけで、お薦めするのはどうかな~とも思いつつ、これはやはり秀作です。ついでに「不快な夕暮れ」の方も同じく、素晴らしい作品だと思っています。
興味を持たれた方には、不快感を覚悟でwwぜひ読んでいただきたいです。