(色文字の箇所は作品からの引用文です)
尊敬する大作家、クッツェーの最新作は、ちょっとびっくりの恋愛小説でした。熟年の、男性の方はもう70を超えた、しかも不倫の物語。
ベアトリスは50才間近。バルセロナで文化行事を行う委員会のメンバー。彼女は飢えを知らない。一度も。恵まれた世代なのだ。
この委員会に招聘されたポーランド人の老ピアニスト・ヴィトルト。彼の滞在中の世話をしてくれるベアトリスに、老ピアニストは恋してしまう。
コンサートが終わればもうお別れ。しかし一週間後、彼女の元にショパンを録音したCDと一緒に「バルセロナで私を見守ってくれた天使へ」というメモが届く。
ベアトリスはというと、父親といってもいい男から口説かれるなんて、面白くも無いし、自尊心をくすぐられたりもしない。感じるのはむしろ、苦々しさだ。
ところが・・・
いえ、どちらにせよこの老ピアニストの片想いでしかないのですが、でも非常に深い展開を見せます。83才のノーベル文学賞作家クッツエーの描くこの恋愛小説は、とくにラストの1行に勝手な想像が膨らみ、個人的には持っていかれましたww
(ヴィトルトはかつて「わたしはあなたの名を口にしながら死ぬつもりだ」と言った。一方、子や孫に囲まれ夫に愛される幸せなベアトリス、やがて迎える、この地上を永遠に去るその時、果たして彼女は?)
始めに尊敬する作家、と書きました。人生の師と仰ぐ方です(いろいろ、師と仰ぐ方多しw)
今回の新刊本、英語の作品なのに英語圏では少し遅れて7月のリリースです。日本語本の方が早かったw そもそもすでに昨年、スペインのカスティーリャ語で出版、その後オランダ語日本語版、最後に英語圏となります。それは英語文化の覇権制に抗う為という事だそうです。クッツェーは以前から、一部の強い勢力による支配に対して反対の立場をとっています。それは例えば欧米列強、超巨大企業の支配などです。あるいは多数派が正当といった考え。そういったものによって差別や貧困など、人々の苦しみが生まれているとの主張です。
愛と正義の人です。ベジタリアンでもあります。
ちょっと小説からは離れましたが、ついでにww ピアニストの話なので、音楽にも造詣の深いクッツェーが愛してやまないルーマニアのピアニスト、ディヌ・リパッティを貼っておきたいと思います。ショパン演奏で有名な方のようですが、よく耳にするバッハの有名な「主よ、人の望みの喜びよ」をどうぞ。音は悪いのですがww あくまでも端正なその演奏に心うたれます。