アメリカのミドルアッパーくらいの家族が、週末に借りた田舎の豪華別荘へと向かいます。

 

ティーンエイジの兄と妹の二人の子供。父親は市立大教授。母親は会社管理職。長い月日のうちにはいろいろあっても取りあえず夫婦仲もよい。.

 

彼らの週末。表紙絵を再掲。

終わらない週末 | 種類,単行本 | ハヤカワ・オンライン

大きなプール。向こうにデッキチェア。わずかに見える室内。

柵からヘラジカも覗いている、自然豊かな別荘ですが。

この絵の色調とタイトルから、ず~っと続く(終わらない)楽しい週末を連想するでしょうか?

何だか不気味ではありませんか??

 

これはなかなかに、ホラーな小説でした。血みどろな事件は起こりません。ただ、ある何か不明な、いつもと違う事が起きて、翻弄される、いやもっとかなw 生存のためにもがく家族の話です。

 

ポイントの一つは、描かれる彼らの心情。長く連れ添った夫婦。子供たちそれぞれ。

途中、もう一組、こちらはほぼアッパークラスに近い、リッチな黒人の老夫婦もでてきますが、この二組のカップルのやり取り。社会的にも成功したちゃんとしたオトナなわけですが、それでも人の心は微妙。ましてや異常事態ともなると。そのあたり、心理小説ともいえるかも。

 

そしてもう一つのポイントは、もちろん主題の、何か起こってくる異常事態。

本の帯には「戦争か、疫病か、天災か」 とありますが、はっきりとは提示されないままに最初のショッキングな一撃?から、徐々に混迷に閉ざされていく家族。これは一体何だ。

 

(実はちょっと提示もあるのですが。197ページ、273ページ等)

 

でもこの小説の面白さは、そういう原因解明や謎解きではなくて。

私たちは何が起こるかわからない世界で、何も分からないままに、ただ日常と呼ぶ幻想に浸ることによって時を過ごしてきている、かも。と思わされましたw

 

文章がすごいんですよ。これもまた、どこかでこんな小説読んだなーと思いつつ、思い出せないのですが。

ひとつ、全然似てはいないのですが、アゴタ・クリストフの悪童日記3部作。この作品は事実だけを書いて、心情はいっさい一切叙述しない主義で書かれているので、心理を描いた本作品は真逆なのですがw でも文章の凄さという点では似ているかも。

 

本文から少し写してみます。

「たぶん、たぶんだが、二人になにかが起こった。花をつける美しい自生植物がありそうもない場所に根を張るように、肺の中に腫瘍が花ひらくことがあるが、何世紀ものあいだその事実を説明する言葉がなかった。しかしなんと呼べばいいかわからなくとも、胸のなかが水泡で満たされれば水死するという事実は変わらない」

 

二人の子供が敷地の先に広がる森を散策する場面です。でも別に水の危険も何もなく、のどかに歩いていくだけのシーンですが。

こういった思わせぶりな文章に次々と攻め立てられますww 

 

2020年全米図書賞の最終候補作品です。が、一般の人気は今ひとつ、と巻末の解説にはありました。

Amazonの書評を見ると、☆5個から☆1個と分かれています。☆ひとつの方は翻訳が酷いというご意見ですが、ユーリはこの翻訳は優れものだと思いました。タイトルひとつとっても。

(原題はLeave the world behind

 

 

長々と書いてしまいましたが、この本読み止められず、ずっとスキマ時間に読み続けました。心拍数上げながらブルブルしながらあせる個人的には面白かったですが、あえてお薦めはしませんw

 

なおNetflixでジュリアロバーツ主演映画の制作が決まっています。うーん、映画でこの小説の独特な怖さがでるかな?単なるパニック映画にならないかな・・・などと思いながらwとりあえずは映画も楽しみに待ちたいと思います。