10篇からなる短編集です。
著者は2016年に亡くなっており、晩年に書かれた作品を集めた最後の作品として2018年に出版。日本語版は2020年。翻訳を待ちわびたファンも多かったのではと思います。.
「ピアノ教室の生徒」
親の屋敷を相続して、ひとりピアノ教師をして生活している50代の美しい女性。語られるのは通ってくる生徒のひとり。天才少年なのだ。
が、少年が帰った後いつも室内の何かが消えていた・・・
冒頭のわずか10ページほどのこの物語にまず心奪われる。
恵まれた環境にいたピアノ教師だったが、不倫の恋に破れていた。妻とは別れるからという男の言葉を言葉を16年も信じ続けてて。
年を経て、成人したかつての天才少年が訪ねてくる。
・・・と説明を試みてもとても伝えようのないこの作品の面白さww
「神秘とは何にも寄りかからない驚異である」とあるラストの数行に頭をガツンとやられる。
「カフェ・ダライアで」
19才で恋に落ちて結婚した最愛の夫を、彼女はまさかの親友に奪われた。
そしてある日夫が親友に看取られて亡くなったとと知る。
でもストレートな愛憎劇ではありません。クロワッサンが名物のカフェ・ダライアに始まりまたそこで終わる静かで深い物語。
「ジョットの天使たち」
記憶障害をもつ絵画修復士の男性。夕暮れ時に出会った女性はどうやら娼婦。男性のアトリエに泊まることになるが・・・。
「身元不明の娘」
通いで家の掃除婦をしてもらっていた若い女性が交通事故でなくなった。
全くのひとり暮らしだった彼女の事情を知ろうとする雇い主。
切ない1篇。
等々、どれも一筋縄ではいかない面白さ。何度も読むたびに新しい感慨にふけりそうです。
著者トレヴァーはまさに名手、そして恋の達人、人生の達人かと。
ほかの作品も、これからぜひ読んでいきたいと思いました。個人的にマストの作家。
ずっと前に読んだ長編がありました。これもおもしろかったのに、なぜ続けて読まなかったのだろうww ちょっと悔しい。
