巨木をくり抜いた丸テーブルの真ん中には、

小窓から燃え盛る薪が生気を主張する、

ダルマ型の薪ストーブ。

その周りの卓上には、どう考えても旨そうな焼き物が並んでいる。

鱒に岩魚、厚揚げにもろこし、玉ねぎ、ししとう……

そんな奴らを横目で見ながら、仲間が語らっている。

 

仲間と言っても素性はバラバラだ。

男も女も、その真ん中も、老若男女が大口を開けて笑い合っている。

 

「それにしても、いい家だね。

 新築お披露目、呼んでくれてありがとね。

 再びの同級生たちみんなを」

 

ビールの大ジョッキを片手に、面子の中では一番若い、

と言っても30代半ばの女性が語りかけてくる。

そう、彼女を含めた「仲間」は

〝ふたたびのどうきゅうせい〟

なのだと、勝手に頭の中で認識している。

 

 

 

社会人になってから大学を目指す大人たちのための

予備校で出会ったのは、中学・高校の同級生6人。

だから〝ふたたびのどうきゅうせい〟。

そんな彼らが、我が家の新築披露に来ているのだ、と。

 

同級生なのはわかっているが、見た目の年齢はバラバラだ。

その理由は知ったこっちゃない。

薄気味悪いのは、彼らが話すすべての言葉が、

自分に対する賛辞で溢れていること。

 

そんな奴らだったっけ、お前ら?

 

「ねえ、家の中案内してくれない?」

 

四十代に見える男が二人、なぜか上目遣いで

身をくねらせながら、声を合わせて話しかけてくる。

あれ? こんなやつ同級生にいたっけ?

おネエの友達はいた覚えないし……

よくみりゃこの二人、オレが大嫌いな

心の底から子供騙しなアコースティック・デュオの

二人によく似ている。というか、たぶん本人だ。

 

「お前ら、そんな感じだったっけ?

 まぁいいや。オレもまだじっくり見てないんだ。

 一緒にルームツアーするか」

 

あまり得意でないカテゴリーのはずの男友達を、

ルームツアーに案内するため、宴会場となっていた三和土から

三人して上がる。

その先にあるのは新築の我が家……のはず。

 

三十メートルほどの長い板廊下が、三和土から真っ直ぐに通っている。

その両サイドに部屋がある。ドアの数を数えてみると全部で五つ。

右に三部屋、左に二部屋。両サイドが部屋だから外光が入って来ない。

だから廊下は薄暗い。その天井には、小さな25Wの裸電球が点っている。

四メートルほどの間隔で、奥へと四つ。白・青・紫・オレンジ、

奥に向かって順に薄く色づいて見える裸電球。

 

「うわあ、洒落てるね」

 

なんの許可も与えてないのに、右一番手前のドアを開けて声を上げたのは、

デュオでコーラスを担当する地味顔の方。

声に誘われて中を覗いてみると……

十畳ほどの部屋の一番奥に、縦に細長く仕切られたオーディオボックスが、

こちらを睨むように鎮座している。

左右は巨大なスピーカーだ。横60センチ、縦150センチほどのサイズ。

それに挟まれた横40センチ縦150センチほどのスペースはほぼ空洞で、

高さ80センチほどの所に台が渡してあり、

その上に小さなターンテーブルが乗っている。

正面から見ると〝H〟に見えるオーディオボックス。

オーディオボックス背後の壁は一面ガラスだ。

ガラスの向こうにはただひたすらに草原が続いている。

ドア面を含んだ残りの壁は、木製の格子が組み込まれていて、

障子紙となる部分には、奥に見たこともないような素材の

白い防音材が据えられている。

三面が格子プラス白の壁面なので、部屋の印象は近代風の和室。

椅子や机や棚はない。Hのオーディオボックスがあるだけ。

 

「こっちも同じ部屋だね」

 

勝手に右側の残り二部屋のドアを開けた、

デュオの片割れ、女顔のキンキン声の男が言う。

なんとなく、そんな気はしていた。

 

「じゃあ、左側を見てみるか」

 

そう言いながら、自分で左側二部屋のうちの手前の部屋のドアを開ける。

広がっていたのは、八畳ほどの明るい部屋だ。

壁四面は黒の漆喰。それなのになぜこんなに明るいかといえば、

天井が全面ガラス張りだからだ。

そして床には、三つの分厚いスプリングマットレスが乱雑に並んでいる。

まあ、ここは寝室だということなのだろう。

 

大嫌いなデュオに先を越されないように、

二人がガラス天井に見惚れている隙に急いで部屋を出て、

最後のドアを開けてみる。

中は、十二畳ほどの部屋。

こちらの天井は調光ガラスだ。

壁四面はすべて、さまざまな規格の本棚になっている。

正面とドア面が書籍。ドアから見て右がレコードとCD。

左がDVDとVHSのビデオ。

 

正面の書籍の棚からじっくりと視線を巡らしていると、

不意に左の棚の前に人が現れた。

 

三年前の11月に亡くなった、父だった。

 

 

「よお。相変わらず映画をよく見てるんだな」

 

「ああ。まあ仕事で見なきゃいけないのもあるからね。

 この中に、好きなのある?」

 

「あるよ。これだな」

 

 

父が差し出してきたVHSは

〝フィールド・オブ・ドリームス〟

だった。

 

父と息子の愛情を描いた映画を選んだことに、

嬉しいような、気恥ずかしいような思いで、

ジャケットに映るケビン・コスナーを見つめた。

何か言葉を発しようと思った瞬間……

 

 

 

目が覚めた。

これが2024年の初夢。