とある金曜日。その日は思いがけず目まぐるしい日になった。
翌日からは三連休だったため、その日の昼までに原稿を上げ、
編集部に送って受領連絡をもらっておきたかった仕事が二つ。
仕方がないので早朝から辛いものを食って脳みそを起こし、原稿書き。
もちろん、その日に書き始めたものではなく、
フィニッシングの作業だったから、なんとか昼までに完了する。
本当に、原稿書きの作業が10年前と比べ格段に遅くなっているのを実感する。
原稿を送信した後は、ドッと疲れを感じる。
思えば今週は、真夏日の外取材が月、火と続いたせいか、
体の調子があまり良くなかった。
エアコンをかけっぱなしで寝ているのに、朝起きると寝汗がひどい。
昼飯は菓子パンを二つほどかじった程度で済ませ、
午後イチからは、白内障を患った母を眼科に連れて行く。
予約してあるのに、二時間近く待たされる。
しかも検査は5分。2回目の検査だったから、
検査データをもとに手術の日程を決めてくれるものと思って行ったのだが、
ひたすらに事務的な眼科医に、こう言われる
「では、7月末に本院の方で最後の検査をしてください。
そのとき、手術の日程を出せると思います。
白内障の手術はだいぶ混み合っているので、
早くて9月、たぶん10月の頭ぐらいだろうと思います」
……は? なんだそれ。
母を家に戻した後は、タクシーを呼んで駅へ行き、秋葉原まで出かける。
版元編集者との打ち合わせ。
前月に、このブログを読んでくれた編集者がメールをくれた。
「一度ぜひ、お仕事ご一緒させていただきたい」
とのことだったので、顔合わせがてら話を聞きに行く、という案件。
帰宅or遊びに出かける高校生、大学生の姿が目立つ
東武スカイツリーラインは、乗車率おおむね80%。
座れやしねえし、時折、他の乗客と汗べっとりの肌が触れ合ったりする。
マスク率は30%ぐらいか。なのに、やたらと咳をする若者が多い。
自分はしっかりマスクをしていたものの、嫌な予感がした。
編集者との打ち合わせは、楽しかったし、有意義だった。
こちらの年齢やキャリアもしっかり認識してくれていて、
〝もう、そういうのは若い人に任せたい〟とこちらが思っている
仕事まで言い当ててくれた。
「あなたの文章のリズムが好きです」
と言ってくれたのが、うれしかった。
打ち合わせが終わったのが17:45。
体調がすぐれないんだから、さっさと帰って母と夕食を摂ればいいのだろうが、
こんな目まぐるしい一日で、澱が積もり切った頭の中には、
「強い酒」という栄養剤が必要だ。
考えるまもなく、上野のアンダーグラウンドにある、馴染みの
〝隠れ過ぎているバー〟に足が向いていた。
いつもより速いペースで、入れてあるバランタインのボトルを減らし、
二時間飲んで15分寝落ちし、また二時間飲んで…のパターンを
三度ほど繰り返して、始発の時間を迎える。
乗り慣れた始発の座席に腰を下ろした瞬間、
トイ面に座るラティーノのおねえちゃんと目が合った。
何度かこの始発で顔を合わせているので、
携帯で誰かと通話をしながらも彼女は、
「また逢ったな」的な目配せをくれる。
それに「そうだな」と目配せを返した瞬間、また寝落ちした……。
0600am。なんとか家のベッドに潜り込む。
始発de帰宅のとき、いつもはなかなか寝付けないのに
この日は枕に後頭部をつけた瞬間、眠り落ちていた。
11:30am。
目が覚めた途端、五寸釘を金槌で額に打ち付けられているような激しい頭痛と、
ヒリつく喉の痛みを自覚した。寒気もある。
寝小便でもしたかのように、シャツとシーツはぐっしょりだ。
もらっちまったか? これ。
急ぎ、階下にいる母に声がけをする。
「ごめん。風邪もらってきたみたいだ。対面は避けとこう」
自分の声がバリー・ホワイトばりの低音になっているのに気付く。
完全に喉をヤられている。
取り急ぎ、昨日の残りの菓子パンを一つ押し込んでから、
ロキソニンを体に放り込む。
後は寝るしかない。
次に目が覚めたのは、1730。
頭痛は綺麗に消え去っている。
寝汗の跡はなく、悪寒もしない。体温を測ってみると、36.2℃。平熱だ。
ロキソニン、いい仕事してる。
だが、咳が止まらない。喉の痛みもひどい。
なんだ、やっぱりもらっちまったのか? これ。
急ぎ、Amazonで買い求めてあった抗原検査キットを口に咥える。
祈ること15分。結果は……陰性。
どうやらコロナではないとわかり、一安心のため息をつくと、咳が追いかけてくる。
夏風邪かぁ。外出禁止の自主隔離だなぁ。
咳以外は何も症状がないので、この三連休は、
見て原稿を書かなければいけない連続ドラマを観て、
ネットスーパーで食料品と「喉風邪対応」の薬を買い込み、
編集者に来月の提出を約束した雑誌企画を練ったりして、
6畳の寝室に引きこもった。
咳がやっと止まったのは始発帰りの朝から数えて四日目の昨日。
引きこもった期間は、溜めていた「have to do」を消化できた時間として、
ポジティヴに捉えます。
無理やりね。