「お兄さん、何を撮ってんの?

   ちょっとデータ見せてくれる?」

 

月一の旅コラムをやっていると、

歩き旅の時は、10年来のデジタル愛機を駆使して、

街中でバシャバシャと風景を撮るものだから、

こんな声をかけられることがよくある。

 

つい最近では、昨年末の玉川上水緑道。

冬晴れにものすごく映えた深青の上水と、

いいぐらいに冬枯れした木々と、古い小さな橋が、

しみじみといい色彩を描いているもんだから、

前後左右にファインダーを巡らせて撮っていたら、

いきなり右手の金網越しに、ちょっと怒気を含んだ声で、

例の声をかけられた。

 

「は? 風景撮ってるだけですけど」

 

「いま、上水と反対の、こっち側撮ってたじゃない?」

 

声の主は、60代半ばぐらいの紳士。

紺のジャージに野球帽。右手に竹ぼうき。

 

「ここ、女子大の敷地なんだよね」

 

……一瞬で合点がいった。

このお父さんは女子大(梅子さんが作った名門)の、

管理人か警備員。

どうやらオレは、

『ピチピチとした若さ溢れる女子大生を、

敷地外からコソコソ盗撮する中年カメ公』

だと思われたようだ。

 

「いやあ、お父さん。職務に忠実なのは素晴らしいけど、

 頭ごなしにそういう言い方されちゃうと、

 こっちも頭に来ちゃいますよ」

事実、汚いものを見るような目つきと、

蔑みを含んだ言い方に、こっちもちょっとイラついた。

で、オラついた。

 

「はいこれ、右カーソルを押していけば順番に見られますから、

 全部チェックしてくださいね」

 

カメラの画面を、金網越しにお父さんの目の前に押し付け、

ちょっと威嚇気味に言ってみる。

 

1分後。

 

「ホントに風景だったね。すみません。

 勘弁してください」

 

写真を確認したお父さんが平謝り。

いえいえ、なんかすみません。こっちも威嚇しちゃって(笑)。

 

 

そこから緑道を歩くこと100メートル。

上水沿いにすっくと立つ大木が清々しかったので、

その木をバックに、タイマーで記念自撮りをしていた。

なかなかに風が強い日で、カメラの固定にモタモタしていると、

不意に後ろから声をかけられた。

 

「私、撮りましょうか?」

 

振り返ってみるとそこには、見目麗しい二人の若き女性。

 

「あ、いいっすか? じゃあ、お願いします」

 

綺麗な若い子にそんなことを言ってもらえたので、

たぶん自分は、満面の笑顔だったと思う……。

中年男性を2枚撮り終えた二人の女性は、

カメラを返しながら話しかけてきた。

 

「なんか、さっき、モメてませんでした?

 うちの大学のところで」

 

「ああ、見てた? そうそう、

 盗撮を疑われちゃったらしくてさー、オレ」

 

「ごめんなさい。お兄さん、全然そんなふうに見えないのに。

 あのおじさん、うちの職員なんですけど、

 本当にいい人なんですよ。やさしくて」

 

「そうなんだ。ちょっと怖がらせちゃったかもしれないから、

 ごめんって言っといて。写真、ありがとね」

 

「はーい」

 

「お兄さん」呼びの気遣いはちょっと悲しかったが(笑)、

なんとなくいい気分になって、また緑道を歩き始めた。

歩きながら彼女たちが撮ってくれた写真をチェックしてみると……

 

逆光&手ブレ&仰ぎ撮りのせいで、

顔は潰れてるわ、巨大ロボみたいに体は膨れてるわ、ピンはきてねえわ

と、ぶっちゃけヒドい写真だったけど、

 

まあ、これはこれで面白いので良しとしましょう。