街の外れにある、小さなリサイクル&アウトレット店まで

自転車を駆り出した。距離はおよそ10キロ。

少し遠回りをして、元荒川沿いのサイクリングロードを、

まっすぐに走ってみることにする。

元荒川の小さな閘門からスタートする自転車道は、

舗装の施されていない部分も多く、だけどその部分は、

和民家の土間程度に踏み固まった土の道で、

自転車で走り抜けるには心地よい。

道の脇には、自生する蓮華、蒲公英、金鳳花に野薊。

 

しばらく走ると、前方で3羽の野鳩が

土の道に落ちた何かを啄んでいる。

かなり近づいても、一向に逃げないので、

仕方なく自転車の小さなベルを鳴らす。

〝チリンチリン〟

衝突の2メートル前で、3羽はやっと飛び立つが、

そのうちの1羽が信じられない行動に出る。

 

自転車に乗るこちらの、右斜め45度の角度を、

低空飛行して並走(飛?)してきたのだ。

目から鳩までの距離は1メートルほど。

わずか2、3秒の間だったが、

羽撃音の聞こえるほどの近さ。

一瞬だったが、お互い横目で眼が合った気もする……。

 

野鳩はその後、急上昇して飛び去って行った。

 

 

なんとも不思議な経験をしたような心持ちで、

10分後に、店に到着。

こちらの店は、男性物のシャツの在庫が豊富。

古着やアウトレットの、かなり質のいいシャツが、

驚くような廉価で手に入る。

今回は、礼服の下に着る白シャツを探しに来た。

 

五月後半には、二年前に急逝した友人の命日がある。

その三回忌に着て行こうと、

貧困なワードロープの中の、数少ない無地シャツに

袖を通してみたとことろ、肩・胸・腹がパツン……。

ゴールデンウィークの、実家での

「食っちゃ寝」生活が及ぼした、深刻な体型クライシス。

それをカバーするアイテムを、探しにきたのだ。

 

 

 

なんとか見つけた、ジャストサイズの

夏物白シャツを見にまとい、

数日後の午前中、根津の駅を降りた。

彼の菩提寺までは、歩いて5分。

公園や池を左手に見ながら、不忍通りを歩いた。

 

天気は快晴。不忍池を通り抜けてくる風が時折吹いて、

初夏に近づく太陽光線とともに、頬を刺激する。

心地よさに歩を緩めて、昨年までは

酒宴の帰りの夜に通ったこの道の風情を楽しむ。

 

ふと真っ直ぐ前方に視線をやると、

30歳近辺に見える母親と、4、5歳に見える娘の

親子連れが手を繋ぎながらこちらに向かって歩いてくる。

母娘ともかなりの美形だ。

母のスカイブルー、娘の淡いオレンジ。

着ているワンピースの色のコントラストもお見事。

 

前方30メートルほどまで来たところで、

娘の方の表情が変わった。

驚いたように目を見開き、その後、

太陽のように明るい、満面の笑顔を携えて、

こちらを見やってくる。

そして、母とつないでいない方の手を上にあげ、

力の限りに大きく振り出した。

 

母は娘のいきなりの行動に驚き、

何か話しかけている。

たぶん、こう訊いているのだ。

 

「あの人、知っている人なの?」。

 

娘は一切それに答えず、相変わらず

満面の笑顔でこちらに手を振ってくる。

 

数秒後、すれ違う時になっても、

娘は手を振り続けている。

仕方なく、こちらも小さく手を振り、

精一杯の笑顔を投げかけた。

交差する瞬間、何かを話しかけてくるかと思ったが、

じっとこちらの目を見つめて来ただけだった。

 

振り返ってすれ違った後ろ姿を見つめてみたが、

母親だけがこちらに振り返り、娘に再び問いかけ、

頭をひねっているだけだった。

 

色々記憶を探って見たが、

やはりあの娘に関する記憶は、

どのページにも載っていない。

 

「なんなんだ?」

 

三回忌の読経の最中、そんな思いが消えなかった。

死んだ友人の顔と、娘の笑顔が交差して仕方なかった。

 

 

なんかあんのかよ? おい。