平日の夕方、福島県まで取材に行って

新幹線で帰ってきた大宮駅。

西口へ向かうコンコースを歩いていたら、

後ろから、何度も靴の踵を踏まれた。

 

気にはなったが、かなりの人ごみの中だったので、

そんな事もあろうかと、一瞬振り返っただけで

放っておいたが、その後も、二度、三度と

踵を踏んだり、蹴ったりしている。

こりゃわざとだなと思い、

振り返って文句を言おうと思ったタイミングで、

二方向への分岐点。すると“踏んづけの主”は、

こちらとは別方向に向かうらしく、右横をすり抜けていった。

その刹那、「チッ!」という大きな舌打ちとともに相手が、

大きく体を振り、自分のバッグをこちらの体にぶつけてきた。

腹に当たったバッグは、そこそこの重さがあったので、

結構な衝撃だった。

 

「ん? 何?」

 

思わず、少し大きめの声を出してしまった。

相手も立ち止まり、こちらを睨んでくる。

それこそ、殺意にも似た凶器をはらんだ大きな眼で……。

 

漫画ならここで、バチバチの場面だが、そうはならなかった。

 

なぜなら、“踏んづけの主”は女性だったから。

それも、身長は150センチ台前半。赤毛のショートカット。

推定年齢22,3歳。ヘアメイクさんかなにかを生業としていそうな

そこそこのクールビューティ。

ただし、睨み返して来る目だけは、いっぱしのヤカラ系で、

そのギャップに、ちょっと笑えてしまった。

 

「ん? なんかやった? オレ」

 

ちょっと微笑みながら再び言ってしまったこちらに、

彼女が取った行動は、またしても予想の範疇を超えていた。

 

“ペッ!”と大きな音を立てて、こちらの足元に向かい、

唾を吐きかけてきたのだ。

 

……唖然とするしかなかった。

  可愛らしい女子の、あまりにも極道な振る舞いに。

 

彼女はすぐに踵を返し、なぜか駅の方へと戻っていった。

その姿を見つめていると、ひとりの若い男性が話しかけてきた。

 

「すごいねー、あのコ。オレ、ずっと見てたんだけどさ、

 改札出たとこでアンタが財布をリュックに戻しているときに、

 横をあのコが通りかかってさ。アンタのリュックの

 ウエストベルトが、彼女の腕にちょっと当たったんだよ。

 すごい軽くだったし、ヘッドホンしてたから、

 アンタは気がつかなかったかもしれないけど、

 彼女はスマホでメールかなんかやってて、

 打ち間違いでもしたんじゃないかな。

 でっかい舌打ちして、アンタの事追いかけてったから」

 

そんなことなのか……と、また笑えてしまった。

でも、よく考えると少し恐ろしくなる。

ひたすらに後ろをついてきて、執拗に踵を踏み続け、

挙げ句の果てに、カバンで殴ってくる。

その粘着性と、あまりにも恐れを知らない行動に。

 

武道か何かをやっていて、対応に自信があるのか?

自分はうら若き女性だから、何もしてこない、

来るはずがないと思っているのか?

刃物かスタンガンでも持っていたのか?

 

今回はこちらが最初に迷惑をかけたようなので、

きっと対峙する事になっても、こちらが謝って終わりだったと思うが、

相手を間違えたら、恐ろしい事になるということを、

彼女は知っておいた方がいいと思う。

 

30を超えても分別のついていない馬鹿野郎は、

それこそ街中に溢れている。

そんな馬鹿野郎に、彼女が今回のような

「怒りのぶつけ方」をしたらどうなるか?

 

理不尽を感じた女性が、その怒りを訴える事は

当たり前にとても大切な事だと思うが、

その訴え方が理不尽になっていてはいけない。

 

“踏んづけの主”の彼女にも、

それぐらいの事は学んで欲しい。