第一篇 幽界の探検 第七章 幽庁の審判〔七〕 | フリーランス宣伝使への道

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ここに大王の聴許(チヤウキヨ)をえて、自分は産土神(ウブスナノカミ)、芙蓉(フヨウ)仙人とともに審判廷(シンパンテイ)の傍聴(ボウチョウ)をなすことを得た。

仰ぎ見るばかりの高座(コウザ)には大王出御(ダイオウシュツギョ)あり、二三尺下の座には、形相すさまじき冥官(メイカン)らが列座してゐる。

最下の審判廷には数多の者が土下座になつて畏(カシコ)まつてゐる。

見わたせば自分につづいて大蛇(ヲロチ)の川をわたつてきた旅人も、早すでに多数の者の中に混じりこんで審判の言ひ渡しを待つてゐる。

日本人ばかりかと思へば、支那人、朝鮮人、西洋人なぞも沢山にゐるのを見た。

自分はある川柳に、

 『唐人(トウジン)を入り込みにせぬ地獄の絵』

といふのがある、それを思ひだして、この光景を怪しみ、仙人に耳語(ジゴ)してその故を尋ねた。

何と思つたか、仙人は頭を左右に振つたきり、一言も答へてくれぬ。

自分も強て尋ねることを控へた。

 ふと大王の容貌(ヨウボウ)を見ると、アツと驚いて倒れむばかりになつた。

そこを産土(ウブスナ)の神と仙人とが左右から支へて下さつた。

もしこのときに二柱(フタハシラ)の御介抱(ゴカイホウ)がなかつたら、自分は気絶したかも知れぬ。

今まで温和優美(オンワユウビ)にして犯すべからざる威厳(イゲン)を具(ソナ)へ、美はしき無限の笑をたたへたまひし大王の形相(ギョウソウ)は、たちまち真紅(シンク)と変じ、眼は非常に巨大に、口は耳のあたりまで引裂け、口内より火焔(カエン)の舌を吐きたまふ。

冥官また同じく形相すさまじく、面をあげて見る能はず、審判廷はにはかに物凄さを増してきた。

 大王は中段に坐せる冥官の一人を手招きしたまへば、冥官かしこまりて御前に出づ。

大王は冥官に一巻の書帳(ショチョウ)を授けたまへば、冥官うやうやしく押いただき元の座に帰りて、一々罪人の姓名を呼びて判決文を朗読するのである。

番卒は順次に呼ばれたる罪人を引きたてて幽廷を退く。

現界の裁判のごとく予審(ヨシン)だの、控訴(コウソ)だの、大審院(ダイシンイン)だのといふやうな設備もなければ、弁護人もなく、単に判決の言ひ渡しのみで、きはめて簡単である。

自分は仙人を顧みて、

 『何ゆゑに冥界の審判は斯(カ)くのごとく簡単なりや』

と尋ねた。


仙人は答へて、

 『人間界の裁判は常に誤判(ゴハン)がある。 
人間は形の見へぬものには一切駄目である。 
ゆゑに幾度も慎重に審査せなくてはならぬが、 冥界の審判は三世洞察自在(サンゼドウサツジザイ)の神の審判なれば、 何ほど簡単であつても毫末(ゴウマツ)も過誤(カゴ)はない。 
また罪の軽重大小は、大蛇川(ヲロチガハ)を渡るとき 着衣の変色によりて明白に判ずるをもつて、 ふたたび審判の必要は絶無なり』

と教へられた。

一順言ひ渡しがすむと、大王はしづかに座を立ちて、元の御居間に帰られた。

自分もまた再び大王の御前に招ぜられ、恐る恐る顔を上げると、コハそもいかに、今までの恐ろしき形相は跡形もなく変らせたまひて、また元の温和にして慈愛に富める、美はしき御面貌に返つてをられた。神諭(シンユ)に、

 『因縁ありて、昔から鬼神(オニガミ)と言はれた、 艮(ウシトラ)の金神(コンジン)のそのままの御魂(ミタマ)であるから、 改心のできた、誠の人民が前へ参りたら、 結構な、いふに言はれぬ、優しき神であれども、 ちよつとでも、心に身慾(ミヨク)がありたり、 慢神(マンシン)いたしたり、思惑(オモワク)がありたり、 神に敵対心のある人民が、傍(ソバ)へ出て参(マイ)りたら、 すぐに相好(ソウゴウ)は変りて、 鬼か、大蛇(ヲロチ)のやうになる恐い身魂(ミタマ)であるぞよ』

と示されてあるのを初めて拝したときは、どうしても、今度の冥界にきたりて大王に対面したときの光景を、思ひ出さずにはをられなかつた。

また教祖をはじめて拝顔(ハイガン)したときに、その優美にして温和、かつ慈愛に富める御面貌を見て、大王の御顔を思ひ出さずにはをられなかつた。

 大王は座より立つて自分の手を堅く握りながら、両眼に涙をたたへて、
 『三葉殿(ミツバドノ)御苦労なれど、 これから冥界の修業の実行をはじめられよ。 顕幽両界(ケンユウリョウカイ)のメシヤたるものは、 メシヤの実学(ジツガク)を習つておかねばならぬ。 湯なりと進ぜたいは山々なれど、 湯も水も修業中には禁制である。 さて一時も早く実習にかかられよ』

と御声(ミコエ)さへも湿(シメ)らせたまふた。ここで産土(ウブスナ)の神は大王に、
 『何分よろしく御頼み申し上げます』

と仰せられたまま、後をもむかず再び高き雲に乗りて、いづれへか帰つてゆかれた。 

仙人もまた大王に黙礼(モクレイ)して、自分には何も言はず早々に退座せられた。跡に取りのこされた自分は少しく狼狽(ロウバイ)の体であつた。

大王の御面相は、俄然一変してその眼は鏡のごとく光り輝き、口は耳まで裂け、ふたたび面を向けることができぬほどの恐ろしさ。

そこへ先ほどの冥官が番卒を引連れ来たり、たちまち自分の白衣を脱がせ、灰色の衣服に着替させ、第一の門から突き出してしまつた。

 突き出されて四辺(アタリ)を見れば、一筋の汚い細い道路に枯草(カレクサ)が塞(フサ)がり、その枯草が皆氷の針のやうになつてゐる。

後へも帰れず、進むこともできず、横へゆかうと思へば、深い広い溝が掘つてあり、その溝の中には、恐ろしい厭(イヤ)らしい虫が充満してゐる。

自分は進みかね、思案にくれてゐると、空には真黒な怪しい雲が現はれ、雲の間から恐ろしい鬼のやうな物が睨(ニラ)みつめてゐる。

後からは恐い顔した柿色の法被(ハッピ)を着た冥卒(メイソツ)が、穂先(ホサキ)の十字形をなした鋭利な槍をもつて突き刺さうとする。

止むをえず逃げるやうにして進みゆく。

 四五丁ばかり往つた処に、橋のない深い広い川がある。

何心なく覗(ノゾ)いてみると、何人とも見分けはつかぬが、汚い血とも膿(ウミ)ともわからぬ水に落ちて、身体(カラダ)中を蛭(ヒル)が集(タカ)つて空身(アキミ)の無い所まで血を吸うてゐる。

旅人は苦さうな悲しさうな声でヒシつてゐる。

自分もこの溝を越えねばならぬが、翼なき身は如何(イカ)にして此(コ)の広い深い溝が飛び越えられやうか。

後からは赤い顔した番卒が、鬼の相好(ソウゴウ)に化(ナ)つて鋭利の槍をもつて突刺さうとして追ひかけてくる。

進退これきはまつて、泣くにも泣けず煩悶(ハンモン)してをつた。

にはかに思ひ出したのは、先ほど産土(ウブスナ)の神から授かつた一巻の書である。

懐中(カイチュウ)より取出し押しいただき披(ヒラ)いて見ると、畏(カシコ)くも

『天照大神(アマテラスオホカミ)、惟神霊幸倍坐世(カムナガラタマチハヘマセ)』

と筆蹟(フデアト)、墨色(スミイロ)ともに、美はしく鮮かに認めてある。

自分は思はず知らず

『天照大神、惟神霊幸倍坐世』

と唱へたとたんに、身は溝の向ふへ渡つてをつた。

 番卒はスゴスゴと元の途(ミチ)へ帰つてゆく。

まづ一安心して歩を進めると、にはかに寒気酷烈(カンキコクレツ)になり、手足が凍(コゴ)えてどうすることも出来ぬ。

かかるところへ現はれたのは黄金色(コガネイロ)の光であつた。

ハツと思つて自分が驚いて見てゐるまに、光の玉が脚下(キャッカ)二三尺の所に、忽然(コツゼン)として降つてきた。






 
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