印刷技術 40年前の印刷現場 | 1級技能士・成田の印刷技術

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1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

私が18歳で印刷会社に入社した40数年前と言うのは、印刷機と言えば、

こりゃ、外国機が当り前で、国産の印刷機を使っているのは珍しい!と言う

時代だったんですよ。(特に菊半以上の大型機) ・・・私は、18歳・新卒で

印刷会社の印刷現場に入社して20歳に成るまでの2年間で、2回の転職、

3軒の印刷会社さんに、お世話に成っています。

 

当時、導入されていた印刷機は、ハイデル、ローランドなんてのが多くて、

たまに見掛ける当時の国産機は性能的に、かなりの差を付けられていた

ように感じます。・・・今でこそ、「MADE IN JAPAN」 は、世界でも有数の、

高品質を誇る信頼のブランドですが、その当時は「安かろう悪かろう」と

形容される、ダメダメブランドのイメージが強かったんですわ~。

 

ですから、その当時、私が使って来た印刷機も、ハイデル⇒ローランド⇒

ハイデル⇒ローランド と、その2社の物ばかりを、交互に使っていました。

・・・最初にお世話に成った印刷会社に、国産の菊全4色機が有りまして、

これね、スイング機構がスゴかったです。

 

紙がフィーダーボードを流れて来て、前アテに当たり、横針が引く。その後、

印刷機に紙を送り込むのが、スイングの役目ですよね。普通の場合はね、

爪で紙を掴んで送り込むんですが、この国産機のスイングには、爪が無く、

フィーダーに有るような吸引サッカーがズラズラと並んでいて、それで紙の

咬を吸い付けて、送り込む方式だったんですよ。

 

ですからね、チョットでも紙のクセが悪くて、咬が上反りとかしてたら、こりゃ

スムーズに送り込む事が出来ませんわね。こうした場合は、フィーダー係の

人が、紙の咬部分に、自分の手で折りクセを付けて、給紙させていました。

 

こんな事ばかりで苦労をしなきゃ成らない時代でしたから、印刷技術って

モノを勉強する様な気も無く、印刷機の機長と言えども、オフセット印刷の

理論の「り」の字も知らない人達が多かったです。まだ10歳代の私が時々、

印刷の質問をすると、多くの場合、昔話でゴマかされて終わりでした。

 

「今は、PS版だけどなぁ、昔は『石版』ってヤツでよォ。これが重くてなぁ~。

ジンク版が出てからは楽に成ったわなぁ~」・・・いやいや、そんな事聞いて

るんじゃなくて、オレはフィーダー調整の基本を知りたいんですよ!「ああ、

ヒーターな。(当時の人はフィーダーと発音出来ず「ヒーター」と言っている

人が沢山居ました) チョッと前まではなぁ、この自動ヒーターも無くてなぁ、

職人が、1枚1枚、手で紙を差しとったんだわぁ~」

 

要するに、その親方(機長)も、新しい自動フィーダーの理論を理解しては

いなかったって事なんですね。・・・まぁね、そりゃ無理なんです。その当時、

零細の印刷現場で働いていたのは、中卒のオッチャン連中ばかり。勉強

する事が嫌いな人達が印刷現場に入り、ハッタリの強い人や、より迫力の

有る人が、上に上がって行くと言う時代だったんですよ。

 

そんな、理論も何も勉強しようとしない連中から教わるような事は何も無い!

と、20歳に成るまでに、3軒目の印刷現場に入ったのですが、正直なところ、

ここが一番、ヒドかった~(笑)。ほとんど、ヤ〇ザ集団のようなオッチャン達の

巣窟ですわ。仕事をするよりも、次の休みの日に魚釣りに行く準備をする事が

何よりも最優先。印刷機を動かさず、釣りの仕掛け作りに専念してました。

 

・・・印刷現場なんて、どこへ行っても同じだな。ならば異業種に転職しようか。

とも考えたんですが、待てよ、これは大きなチャンスかも、知れんよなぁ~。

こんなアホなオッチャン達を一掃してしまうのなんて簡単なんじゃないのか?

 

と、考えたのが「水戸黄門の印籠を持つ事」だったんですよ。「頭が高いッ!、

オレを誰だと思っとるのかッ!」・・・その印籠こそが、国家資格・1級技能士

ってヤツだったわけです。当時の1級技能士合格率は、25%程度。しかも、

同じ人が何年も続けて受験し、5年目にようやく合格した!なんて時代です。

まぁ、普通のオッチャン達は「受験」って言葉だけで蕁麻疹を出すような始末

ですから、国家資格に挑戦するなんて、飛んでもない話でしたしね。

 

高校を卒業して、最短で2級資格(地方資格)を取得し、その当時の最短、

26歳で1級受験の権利を得て、ここで一発合格すれば、最速の国家資格

取得と成る訳です。「そんなもんなぁ、ベテランの賢い連中が何年も挑戦して

ようやく受かるか受からんかと言う資格だぞ。若造が一発で合格するなんて、

そんな事が有り得るワケが無いわッ!受験料がもったいないぞッ!」

 

周囲からの圧倒的な批判を跳ね返して、当時の常識を打ち破り、26歳、

初挑戦で一発合格!・・・これね、当時は、大ニュースだったんですよ~。

 

そこからは、現場内でも楽でした。「勉強もしてないヤツが、偉そうな事を

言ってんじゃないぞ!オッチャンの言ってる事と、国家資格を持ったオレが

言ってる理論の、どっちが正しい?オレの半分でもいいから、勉強し直して、

オレと対等に議論が出来る様に成ってから出直して来いやッ!」

 

まぁ、超クソ生意気な26歳ですよね~(笑)。

 

今現在は、高学歴な人や、非常に優秀な人達が、印刷現場に居る様な時代

に成りましたね。話をしてても「うわぁ~、この子、賢いわ~」と、感心する様な

若手さんが、機長に就いてくれていたりします。業界にとって、厳しい時代に

成ってしまっていますが、そうした若い人達が大きな改革を行ってくれる事を、

私は、とても楽しみにしています。(^^)v