印刷技術 現場を見る | 1級技能士・成田の印刷技術

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1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

以前にも書きましたが、「百円課長」と言う、改善失敗例の、お話しです。

「課長、当社の社内食堂の利用率が低く、このままでは採算が取れません」

「そりゃ美味くないからだろう。副食費を100円上げて内容を充実させろ!」

 

早速、100円分、おかずの内容を充実させて社員さん達が来てくれる様に

改善を行ったのですが、一度は来てくれた社員さん達も、その一度で終わり。

またまた、社員食堂は閑古鳥が鳴くような寂しい状態と成ってしまいました。

 

「美味しくないからだろう」「それならば100円上げろ」・・・これ、その課長さん

個人の、ただ単なる想像であり、その課長さんの、個人的な価値観のみで

考えた改善ですよね。これはね、全く的の外れた改善と言うより変更だった

から、社内食堂の集客率を全く変える事が出来なかったと言うワケです。

 

何がダメだったのか? この課長さん、問題に成っている食堂、つまり、その

現場を全く見もせずに変更案を実施してしまったのです。しかも実際にその

食堂を利用する社員さん達の意見すら聞いていない。こりゃアカンです。

 

問題が有り改善を行おうとする時には、必ずその現場を実際に自分の目で

見る事。これが何よりも大切なんです。・・・「確かに食事の内容は充実した

けどさぁ、先に作り置きしてるから、あの食堂の食べ物は冷たいんだよね~。

こんな寒い時期には、やっぱり暖かい物が食べたいでしょう。」

 

課長さんもね、実際に自分で、その食堂の昼食を食べてみれば、こんな事、

すぐに理解出来ましたよね。だからこの場合の本当の改善は「暖かい物は

暖かい状態で提供する」 こうする事が本当の改善だったと言うワケです。

 

以前、ある印刷会社さんに訪問させて頂いてセミナーをしていたら年配の

オペレータさんから発言が有りました。「ワシの印刷機は、かなり古く、もう

爪がダメなので、見当が合わない。菊全機で、四六半切はイイんだけど、

菊全を刷ると全く見当が合わずに困っている。爪の交換を、会社にお願い

しているのだが言う事を聞いてくれない。成田先生からも、社長に進言を

して頂きたい!」・・・そのセミナーには、社長さんも同席されていました。

 

そうですか。爪は消耗品ですから、古い印刷機は交換調整が必須ですが、

ケッコウ高額な予算が必要に成りますから、その古い印刷機を破棄するか

買い替えるか、爪調整の代金を払うかってのは、経営者さんとしてはねぇ、

非常に悩まれる事と思います。じゃ実際に、その印刷機を見せて下さい!

 

「ええッ!ワシの印刷機を、見るんですか?」 ハイッ!もちろんですよ!

社長さんが見ても分からんかも知れませんが、私が見たら本当に爪交換が

必要なのか、はたまた、もう破棄した方が良い印刷機なのか判別出来ます。

 

てなワケで実際に現場に行って、その印刷機を拝見。私も使用経験の有る

非常に古い印刷機ですが、外観は非常に綺麗で丁寧に使われている事が

見て取れます。・・・爪が見たいので、ステップ開けますよ~。まずは中間胴。

ここの爪は非常にキレイな状態でした。そして圧胴側のステップを開けよう

とすると、そのステップの上に機長さんが居るので開ける事が出来ません。

 

「爪、キレイでしょう。ワシ一生懸命、磨いてますもん」・・・確かにキレイです。

でも圧胴の爪も見たいので、そこ、退いてもらえますか。「エエッ!圧胴側も

見るんですか?」 当たり前です。と言うか、なんで圧胴側を見せる事をイヤ

がるのかなぁ?と思いつつ、無理矢理、ステップを開けてみてビックリです。

 

圧胴がね、ゴテゴテ状態だったんです。いや全てではないですよ。四六半切

のスペースは非常にキレイでピカピカ光ってます。でも四六半切の紙が通る

外側部分には、汚れが積もってしまっていて、明らかに汚れで段差が出来て

しまっている状態。これじゃ爪ウンヌンの前に、菊全判の見当など合うワケが

ないですわなぁ。・・・これ毎日、清掃してます?

 

「いや毎日、拭いとるんじゃけどねぇ」・・・あのね、「拭く」って言うのはね、この

汚れを取る行為を「拭く」って言うのであって、こんな段差が付くような汚れを

溜め込んでしまっている状態を、「拭いている」とは決して言わんのだよッ!

自分の手抜きを棚に上げて、爪交換をしろだとッ!ナメてんじゃねぇぞッ!

 

人はね、ウソを言います。自分にとって都合の悪い事を隠したり、ゴマカシたり

してしまうんです。でもね、印刷機械ってヤツは、ウソを言いません。ゴマカす

ような事も決してしませんし、出来ようはずも無いんですわ。若いオペレータで、

この圧胴の段差汚れが分かっていないのなら、指導のしようが有りますよね。

でも相手は、何もかも知り尽くしたベテランオペレータ。こりゃ確信犯です。

 

トラブルが発生した時、不具合で困った時、上長の者は、自分のデスクから、

あれこれ指示を出したり、文句を言ったりするのではなく、必ず、その現場を

見に行く事。実際に自分の目で、その現場を見れば、真実が見えて来ます。

真実が見えれば、正しい改善策に、たどり着くのも簡単なんですよ。

あれこれ言う前に、「まず現場を見る」 それが、管理する側の基本です。

100円課長に成って無駄な経費を使うようでは、管理者失格ですよ。