印刷技術 乾燥と裏移り | 1級技能士・成田の印刷技術

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1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

今時は、高感度UVの全盛期に成りつつありますので、紫外線硬化の

話をするべきかも知れませんが、私の所へ届く質問内容には、まだまだ、

油性機での、裏移りや乾燥の問題等が多いので、チョッと整理の意味も

含めて、油性機での、乾燥の話を確認しておきましょう~。

 

油性の場合、「酸化重合」と言う形態で、インキの乾燥が進んで行きます。

・・・って書くと難しいですよね。えっとね、紙の上に乗っかったインキはね、

空気中の酸素と化合する事で乾燥して行くんですわ。

 

「酸素と化合する事で乾燥する」=「酸化重合」なんです。これはあくまでも、

「化学反応」なんです。つまりね、ガラス板の上の水滴が蒸発して行くような、

そんな物理的な話ではなく、化学反応を起こして乾燥して行くのですわ。

 

化学反応を促進してやる為には、「温度」と言う要素が重要に成ります。

極端な話、まだ完全に乾燥していない印刷物を、0℃の場所で保管した場合

と、20℃の場所で保管した場合では、絶対に20℃保管の方が乾燥が速い

ですよね。これは物理的な話ではなく、化学反応の為の温度なんですわ。

 

酸化重合での乾燥は、3段階で進行して行きます。

第一段階=セット  これは印刷直後、5~10分程度で完了する乾燥状態

なんですが、この状態では、印刷絵柄を軽く指先で触った程度くらいならば、

絵柄が擦れてしまったり、指にインキが着いたりする事はありません。

 

紙に印刷されたインキの上を、インキ中の樹脂成分がカバーして、少し

固まった状態です。インキの表面を樹脂がカバーしているので、軽く擦る程度

なら大丈夫なのですが、樹脂の下のインキ本体は、酸化重合が進んでいない

状態ですから、まだ、ナマのインキです。なので、この状態の時に断裁機で

断裁したら、樹脂の殻が破れて、中身のナマインキが出て来てしまうので、

こりゃ、断裁機による、裏移りが発生してしまいますわね。

 

印刷中に発生する「裏移り」ってのは、この「セット」って工程を、素早く完了

させる事が出来ないために起きてしまいます。セットを遅らせてしまう要因は、

そのほとんどが、湿し水の多過ぎなんですわ。

 

インキは、固体か、液体か、気体か?って、言ったら・・・。インキ缶に入った

状態のインキを考えてみて下さい。缶を傾ければ、インキは缶から流れ出し

ますよね。流れ出るって事は、流動性が有るって事ですから、こりゃ液体で

ある!って事が分かりますよね。

 

んで、印刷して、乾燥して紙に乗ったインキ。これは傾けたって、流れません。

つまり、「液体」だったインキが、「固体」に変化したってことですよね。 この、

液体⇒固体 に変化する事を、印刷の世界では「乾燥」と呼ぶワケです。

 

そう考えた場合、軟らかいインキと、硬いインキでは、どちらが乾燥が速いか?

極端に考えるならば、ダラダラに軟らかいインキって、水に近いような液体

ですよね。それと比べて、カチカチに硬いインキは、もうほとんど、固体に近い。

どっちが、固体に変化するスピードが速いかと言えば、より固体に近い、硬い

インキの方が、明らかに速い。つまり、乾燥が速いって事ですね。

 

湿し水が多過ぎると、乾燥が遅い。・・・湿し水はインキの中に取り込まれます。

湿し水を取り込んでしまったインキは、ダラダラに軟らかく成ってしまうので、

より、固体から遠ざかった物に成ってしまうから、乾燥が遅く成る。乾燥形態の

最初である、セットが遅くなるので、裏移りが発生してしまいやすく成るって事

ですね。

 

裏移りはね、ローラーメンテの不良でも、メッチャ発生しやすく成ります。

ローラーニップの調整が悪ければ、必要以上にインキを出さないと、インキの

転移(流れ)が悪く成ります。多過ぎるインキを汚さない為には、多目の水が

必要と成り、その多目の水がインキに入り込み、余計にインキがダラダラに

成って、セットを遅らせるから、裏移りが起きやすく成ってしまう。

 

今一度、シッカリ、ローラーニップ確認とか、ローラーメンテを

やってみて下さい。必ず、裏移りは無くなりますよ(^^)v 。