印刷技術って? | 1級技能士・成田の印刷技術

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1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

「理論が伴わないやり方を技術とは言わない」 と言うのが、私の持論です。

その人しか出来ないやり方、カッコ良く言えば、「職人技」みたいな感じに成る

のかも知れませんが、それは、あくまでも「特殊なワザ」であり、技術ではない。

 

理論が伴わない漠然とした手法は、多くの場合、継承して行くうちに、間違った形に

変わって行ってしまいます。それは、「伝言ゲーム」をしてるのと同じなんですわ。

意味の無い、脈絡の無い伝言は、何人もの人を介して伝わるうちに、全く違った

内容に変わってしまう事が多々有ります。

 

昨年、ある印刷工場で、「エッチ液6%設定」と言う光景を見ました。本当は2%で

使うエッチ液を、6%も入れてしまっていたのです。こりゃ当然、インキが乳化します。

乳化したインキが、水舟の中に溜まってしまっていました。スゴイ光景でした。

 

何で6%も入れてるの?って聞いたら、「汚れが出る場合はエッチ液の量を増やせ」と

教えられているので、そうしたとの事。何で、汚れが出たら、エッチ液の量を増やすの?

「分かりませんけど、そうしろと教えられているので・・・」そこに理論は有りませんでした。

 

この手法を考え、最初に伝えた時は、「汚れが出やすかったら、エッチ液の量を少し

増やすと楽に成るぞ」って、くらいの話だったのだと思います。しかし、なぜ楽に成る

のか?とか、どれくらい増やすのか?なんて言う理論が、全く伴っていなかったため、

「汚れが出たらエッチ液を増やせ」と言うだけの言葉が、独り歩きしてしまいました。

 

何の疑いも無く、また何の知識も無い後継者達は、その教えを忠実に守って、その結果、

6%もの添加をしてしまっているのです。・・・この、水舟の中のインキはイイの?って

聞いてみました。「それは、そう言う物なんじゃないんですか。もっとエッチ液を増やせば、

それも消えてくれるんですかねぇ?」  全くの、アホです。

 

理論が伴わない手法が、たまたま、ウマく行ってしまったりするのが、印刷の恐ろしい

ところだったりします。様々な条件が重なると、間違ったやり方なのに、奇跡的に良好な

結果を得る事が出来たりしてしまいます。「理屈は分からんけど、こうやるとウマく行く!」

40年前の、クソオヤジ達の自己満足の自慢話です。

 

本当は間違ったやり方なのに、たまたまウマく行ってしまった。当然、理屈など全くナシ。

こうして、数々の「迷信」が作り上げられて行ったのが、40年前の印刷現場だったのです。

基本すら勉強しない、理論等、全く考えない人間には、怖い物なんて何も有りませんわね。

・・・もう、40年も前の話です。今時こんなバカげた事など有り得ないと思ってました。

 

んでもね、まだまだ有るんですわ。「藍の標準濃度=1.70」って言う、明らかに間違った

基準値を守り抜いている。・・・なぜ、それを疑問に思わないのだろう?明らかに藍×紅の

トラッピングが悪く、汚い紫色に成ってしまっているのに、是正しようとしない。なぜ?

そこに有るのは理論ではなく、とても根強い間違った「迷信」だからなんですよ。

 

先日も、「レザックの凹部分にインキを乗せるためには、版×ブラン間を過圧せよ」と言う

手法が紹介されていました。ブラン×圧胴間の過圧なら納得の行く話ですが、版×ブランを

過圧して良く成る理論が、どこに有るッ!そんな理論が有るワケがないッ!

 

理論が伴わない手法は、技術とは言わない。それは迷信であり、一つ間違って聞いたら、

エッチ液6%のように、飛んでも無い事態を招く事と成る。・・・版×ブラン間を過圧しても、

なかなか、レザックの凹部にインキが乗らない。もっと過圧しよう!なんてやってしまったら、

印刷機、壊れるよ。

 

我々、教える側の人間ってのは、相手に「なんで?」と、5回訊ねられても、全て解説が

出来なくては成らない。そうでなければ教えてはいけない。と、恩師である鎌野先生に

言われました。そのためには、相手の10倍の知識を持て!と。

 

10倍の知識が有るかどうかは自信がありませんが、少なくとも、40年前の再現をしては

アカンです。我々、年配者が40年前と同様の、クソオヤジに成ってはアカンのですよ。

「理論が伴わない手法は技術とは言わない」 印刷現場に古くから残る慣習を今一度

全て見直し、理論的に正しいのか吟味し、間違っていれば躊躇なく切り捨て是正する。

それこそが、今現在を生きる我々、現代版クソオヤジの最重要項目だと思っています。